
view 612
ガートナー社が発行するハイプ・サイクルとは何か?分析・実践編(2024年版)

先進テクノロジのハイプ・サイクル、注目は「AI」関連
近年、AIを中心とした先進テクノロジが急速に進化し、ビジネス環境を変えつつあります。しかし、新技術のすべてが即座にビジネスに適用できるわけではありません。そこで、ガートナーの「ハイプ・サイクル」を活用し、技術のライフサイクルを理解することが、コンサルタントにとって不可欠です。
本記事では、2023年・2024年のハイプ・サイクルをもとに、コンサルティング業界における影響を分析します。
目次
今回の確認対象のハイプ・サイクル
“先進テクノロジのハイプ・サイクル”(2023-2024の計2年分)を今回の確認対象にしました。
・先進テクノロジのハイプ・サイクル 2023年(2023年10月29日)
・Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies Highlights(先進テクノロジのハイプ・サイクル 2024年)(2024年8月21日)
これらハイプ・サイクルの動向から「今後のコンサルティング・サービスの方向性」を探ってみたいと思います。これまでのトレンドと最新トレンドを俯瞰することがポイントと考えています。
なお、ガートナー社は、先進技術のハイプ・サイクルにおいて、これらのテクノロジーが今後、ビジネスや社会に大きなインパクトを与え変革を促す可能性が高いことを指摘し、リーダーに検討の必要性を説いています。

Hype Cycle for Emerging Technologies, 2024

2023年と2024年で登場するテクノロジの変化
初登場(テクノロジ数:13)、再登場(同:12)、消滅(同:13)がほぼ同割合でした。
初登場はAI関連が目立ちます。
例:汎用AI、自律エージェント、マルチエージェントシステム 。
また、急速なAI関連の技術進歩により、派生して求められる技術ニーズも登場しています。
例:リアルとデジタルの融合(空間コンピューティング、顧客のデジタルツイン)、6G、大規模アクションモデル、デジタル免疫システム
初登場(テクノロジ数:13)
ハイプ・サイクル | テクノロジ |
---|---|
10.黎明期 | 自律エージェント |
汎用AI | |
マルチエージェントシステム | |
ヒューマノイド作業ロボット | |
偽情報セキュリティ | |
空間コンピューティング | |
顧客のデジタルツイン | |
大規模アクションモデル | |
デジタル免疫システム | |
6G | |
20.「過度な期待」のピーク期 | スーパーアプリ |
プロンプトエンジニアリング | |
マシンカスタマー |
再登場(テクノロジ数:12)
ハイプ・サイクル | テクノロジ |
---|---|
10.黎明期 | フェデレーテッド機械学習 |
強化学習 | |
AIスーパーコンピュータ | |
サイバーセキュリティメッシュアーキテクチャ | |
20.「過度な期待」のピーク期 | 生成AI |
AI TRiSM | |
AI拡張ソフトウェアエンジニアリング | |
クラウドネイティブ | |
10.黎明期から 20.「過度な期待」のピーク期へ |
GitOps |
WebAssembly | |
準同型暗号化 | |
内部開発者ポータル |
消滅(テクノロジ数:13)
ハイプ・サイクル | テクノロジ |
---|---|
10.黎明期 | クラウドサステナビリティ |
クラウド開発環境 | |
グラフデータサイエンス | |
サイバーセキュリティ生成AI | |
ニューロシンボリックAI | |
バリューストリーム管理プラットフォーム | |
ポスト量子暗号 | |
因果推論AI | |
拡張型 FinOps | |
業界別クラウドプラットフォーム | |
20.「過度な期待」のピーク期 | API中心SaaS |
オープンソースプログラムオフィス | |
クラウドからエッジへの出力 |
次章では、2024年にフォーカスした分析をしてみます。
2024年登場のテクノロジ
下表は、先進テクノロジのハイプ・サイクル2024年版で言及されているテクノロジ4分類を用いて、このハイプ・サイクルを一覧化したものです。「初」は初登場のテクノロジを表しています。前章までに触れた通り、初登場のテクノロジが13、そのうち6つはAI関連と注目度が大きいことが分かります。
先進テクノロジのハイプ・サイクルと初登場のテクノロジ
分類 (Gartner) |
フェーズ | テクノロジ(和訳) | 初 |
---|---|---|---|
自律型AI | 黎明期 | 自律エージェント | ✓ |
汎用AI | ✓ | ||
マルチエージェントシステム | ✓ | ||
ヒューマノイド作業ロボット | ✓ | ||
大規模アクションモデル | ✓ | ||
強化学習 | |||
AIスーパーコンピュータ | |||
「過度な期待」のピーク期 | マシンカスタマー | ✓ | |
生成AI | |||
開発者の生産性向上 | 「過度な期待」のピーク期 | AI拡張ソフトウェアエンジニアリング | ✓ |
プロンプトエンジニアリング | ✓ | ||
内部開発者ポータル | |||
GitOps | |||
WebAssembly | |||
クラウドネイティブ | |||
総合的な経験で力を与える | 黎明期 | 6G | ✓ |
空間コンピューティング | ✓ | ||
顧客のデジタルツイン | ✓ | ||
「過度な期待」のピーク期 | スーパーアプリ | ✓ | |
人間中心のセキュリティとプライバシーの提供 | 黎明期 | デジタル免疫システム | ✓ |
偽情報セキュリティ | ✓ | ||
サイバーセキュリティメッシュアーキテクチャ | |||
フェデレーテッド機械学習 | |||
「過度な期待」のピーク期 | AI TRiSM | ||
準同型暗号化 |
ガートナー社は、先進テクノロジのハイプ・サイクル 2024年で各分類を以下のように説明しています。引用元のサイトは英文のため、本記事執筆者の訳となります。
引用:Gartner 2024 Hype Cycle for Emerging Technologies(2024年8月21日)
自律型AI
AIの急速な進化により、人間の監視を最小限に抑えて動作し、自分自身を改善し、複雑な環境での意思決定を効果的に行うことができる自律型AIシステムが生まれています。人間が実行できるあらゆるタスクを実行できるこれらの高度なAIシステムは、SFから現実へとゆっくりと移行し始めています。
開発者の生産性を向上させる
開発者の生産性は、コードをすばやく記述するだけではありません。これは、開発者の効果的なコミュニケーションとコラボレーション、そして彼らが集中力を高め、完全に関与し、楽しんでいる (「フロー状態」にある) という感覚に影響されます。
ガートナーのアナリストChandrasekaran氏は「テクノロジは、開発者がソフトウェアを設計し、提供する方法に革命をもたらし、開発者の生産性をこれまで以上に向上させる」とし、「これにより、より高品質な製品を迅速に提供できると同時に、開発者の満足度、コラボレーション、フローを改善することで利益を最大化することができる」と述べています。
総合的な経験で力を与える
トータルエクスペリエンスとは、顧客体験、従業員体験、マルチエクスペリエンス、ユーザーエクスペリエンスの実践を絡み合わせることで、優れた共有体験を生み出す戦略です。テクノロジを使用して重要なインタラクションに対処し、顧客と従業員の両方に力を与え、自信、満足度、ロイヤルティ、アドボカシーを高めることを目標としています。
人間中心のセキュリティとプライバシーの提供
セキュリティとプライバシーの手法を使用して、相互信頼の文化を醸成し、チーム間で共有されるリスクを認識することで、組織はより回復力を高めることができます。
「セキュリティ対策は、人間が完全に安全でセキュアな方法で行動できるという前提に依存しがちです。しかし、従業員がセキュリティとビジネスデリバリーのどちらかを選択しなければならない場合、彼らはしばしばビジネスデリバリーを選択し、時には厳しすぎるセキュリティ制御を回避する」とChandrasekaran氏は述べており、「人間中心のセキュリティとプライバシーは、組織のデジタルデザインに厳格なセキュリティとプライバシーのファブリックを織り込んでいる」と続けています。
考察 コンサルティング業界への影響
テクノロジの進化は、コンサルタントの役割を大きく変えつつあります。例えば、AIの進化により、データ分析やリサーチ業務が大幅に効率化されると考えられます。一方で、「戦略的な意思決定」や「クライアントとの関係構築」といった、人間ならではのスキルの価値が高まると考えます。
コンサルタントが注目すべきポイント
・自律エージェント × コンサル業務 クライアントのニーズに応じて自律的に最適解を導き出すAIの活用 ・デジタルツイン × 顧客体験の最適化 企業のビジネスモデルにリアルタイムのシミュレーションを提供 |
2024年ハイプ・サイクル発表後もAIに関するニュースが世界を賑わせていることから、次回のハイプ・サイクルに衝撃的なテクノロジが登場してもおかしくなさそうです。
今回は、“先進テクノロジのハイプ・サイクル”を題材に、今後のコンサルティングニーズの方向性をさぐりました。
ハイプ・サイクルに登場するテクノロジは数が膨大で栄枯盛衰ですので、一つひとつのテクノロジに振り回されずに大局観をもって参考にし、日々のコンサルティング業務に活かすことが重要です。
[v174]
執筆者

- コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社 コンサルティングカンパニー
- SIer・ITコンサルファームでのキャリアを積む。大規模システム刷新プロジェクトにおける業務要求定義からシステム導入運用まで幅広いフェーズや大企業でのDXにおけるPgMOのリーディングや実務をこなす。業務・IT双方へ精通し、関係者との迅速な関係構築のうえ、両面からの業務改革支援に強みを持つ。
執筆者

- コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社 コンサルティングカンパニー
- SIer・ITコンサルファームでのキャリアを積む。大規模システム刷新プロジェクトにおける業務要求定義からシステム導入運用まで幅広いフェーズや大企業でのDXにおけるPgMOのリーディングや実務をこなす。業務・IT双方へ精通し、関係者との迅速な関係構築のうえ、両面からの業務改革支援に強みを持つ。