子供の絵本を読んでいると、つい、ビジネス視点で物語を分析してしまう|コンサル職業病シリーズ
絵本なのに分析が止まらないコンサル癖
子供と一緒に絵本を読む。
本来なら、仕事を忘れてほっと肩の力を抜く、穏やかな時間のはずです。しかし、コンサルタントという生き物はそうはいきません。
「このキャラクターの行動原理は…?」
「このストーリー、完全にMVPからPMFへのプロセス*¹だよな…」
「これ、意外と組織論の比喩になってない?」
気づけば “絵本を読む親” から “ビジネスを語り始めるコンサル” に変身してしまう。そんな経験がある人、きっと多いのではないでしょうか。
この記事では、私が子供と絵本や昔話を読んでいるときに、ついビジネス視点で分析してしまった作品を、実際のエピソードとともにご紹介します。
*¹MVPからPMFへのプロセス:
MVP(Minimum Viable Product)からPMF(Product-Market Fit)へのプロセスとは、最小限のプロダクトで市場の反応を検証し、改良を重ねることで、ターゲット市場により適合する製品を作り出す一連のステップを指します。
目次
「わらしべ長者」
最小資源から価値を生む“バリューチェーンの原型”
ある日、子供に「わらしべ長者」を読んでいたとき、ふと気づきました。
「あれ?これって“価値交換の連続によるスケール戦略”では?」
主人公はたった1本の藁という、ほぼゼロ資産からスタートします。にもかかわらず、彼は出会う人のニーズを的確に捉え、“相手の困りごとに応える” という最も本質的なビジネスアクションを積み重ねていきます。
・喉が渇いている人にみかんを渡す
・馬を手に入れた後は農作業を手伝う
・単なる物々交換ではなく、サービスとして価値提供もする
彼が行っていたのは「運任せの成功」ではなく、まさに「顧客理解 × 小さな価値提供 × 信頼の積み上げ」という、現代のビジネスでも通じる王道戦略そのもの。
しかも特筆すべきは、“自分の利益”より、まずは目の前の相手の価値に向き合っていたという姿勢です。これは顧客中心主義の原型であり、LTV最大化*²の考え方そのものです。気づけば私は、子供に読み聞かせながら熱を込めて解説していました。
*² LTV最大化:
LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)とは、一人の顧客が、生涯または一定期間に、企業にもたらす利益の累計額のこと。顧客との長期的な関係を強化し、LTVを最大化することで、新規顧客獲得にかかるコストを抑えつつ、効率的に収益の安定化・利益率向上・事業価値向上に繋げられます。
「北風と太陽」
強制か、自然発生か。“人が動く理由”を思い出させる寓話
「北風と太陽」を読むたびに思わず感じるのは、これはリーダーシップ論の本質ということです。
北風は「外的圧力」で人を動かそうとします。これは指示・命令型マネジメントであり、緊急時には必要ですが、長期的には反発を生みやすいです。
一方、太陽は暖かさで旅人の“内発的動機”を引き出します。これは支援型リーダーシップ*³やエンパワーメントそのもの。
・「やらせる」のか
・「自分から動きたくなる状態をつくる」のか
この差だけで、組織の生産性も、営業の成果も、顧客満足度も劇的に変わります。私はこの絵本を子供に読みながら、「ああ…今日のミーティング、完全に北風だったな」と反省することも少なくありません(苦笑)。
*³支援型リーダーシップ:
業務遂行の効率化、心理的安全性の確保、モチベーション向上を目的に、具体的な助言やリソース提供、フィードバックなどの支援を積極的に行うリーダーシップの手法です。こうした支援を通じて、部下やチームの成果を引き出します。
「ろばとバカな親子」
“全方位満足”を狙うと失敗するという壮大なテーマ
この寓話は、一見すると笑い話のようですが、ビジネスの世界では非常にリアルな教訓を含んでいます。
親子は周囲の意見に振り回され、
・子どもが乗ったら批判され
・父が乗ったら批判され
・一緒に歩いたら批判され
・ろばを担いだらさらに批判され
結果、誰も満足せず、ろばまで失う。これ、プロジェクトでもよく見ませんか?
・上層部の意見に合わせ
・現場の声に合わせ
・顧客の要望に合わせ
・さらに他部署の希望も盛り込み
最終的に「全部盛りの誰も喜ばない仕様」ができあがるのです。この物語は、意思決定軸がぶれると価値は消えるという、組織運営の重要な示唆をくれます。そして何より、「聞きすぎてもダメ、聞かなさすぎてもダメ。大切なのは“自分たちの基準”」という、プロダクト開発にもマネジメントにも通じる普遍的な考え方を教えてくれるのです。
「アリババと40人の盗賊」
情報アドバンテージ × リスクマネジメントの話
アリババが手にしたのは、たった一つのキーワード。
「開けゴマ」
つまり、“重要な情報へのアクセス権”です。ビジネスでも、
・市場の構造
・顧客の本音
・競合の動き
など「人より一歩深い情報」に触れられるかどうかが競争力を左右します。アリババは情報を偶然入手しただけのように見えますが、「情報に気づける観察力」こそが本物のアドバンテージと解釈することもできます。アリババは盗賊の財宝を見つけたあと、恐怖心からか“必要以上に慎重”になります。これはビジネスにおける過剰リスク回避・過小リスク選好という、よく陥りがちな意思決定バイアスそのものです。
一方で、兄のカシムは真逆のタイプ。情報を手にした途端、「これで一生安泰だ!」と過剰な自信に陥り、盗賊に見つかってしまいます。
同じ情報を得ても、
・慎重すぎる人
・大胆すぎる人
この差で結果が大きく変わる。まさに、リスクマネジメントと意思決定プロセスの教材です。
アリババが成功したのは、情報を独り占めするのではなく、周囲の人と協力しながら安全に活用したからです。これもビジネスと同じで、情報は「共有と適切なオペレーション」で初めて価値になるという点が非常に示唆深い。気づけば私は絵本を読みながら、「やはりインサイト*⁴は、価値創出→運用→リスク管理まで含めて初めて機能するよな…」と考え込んでしまいました。
*⁴インサイト:
データや情報を掘り下げて得られる”気づき”や”洞察”のこと。顧客自身も自覚していない欲求から新たなニーズを引き出し、市場開拓を可能にします。しかし、見つけただけでは意味がなく、価値につなげて実務で活かし、リスクも適切に管理して初めて真に役立ちます。
「桃太郎」
最強のチームビルディングと“成果報酬設計”
桃太郎は鬼退治というプロジェクトに向けて、犬・猿・キジという、性質も技能も異なるメンバーを集めていきます。これがまさに理想的なクロスファンクショナルチーム*⁵。
・犬 → 忠誠心と戦闘力
・猿 → 機動力と器用さ
・キジ → 空中偵察と情報収集
能力がかぶらず、補完関係が成立しているあたり、完全に計算された人材ポートフォリオです。
「なぜ、ウサギや鹿じゃないのか?」
「なぜ、この3匹が選ばれたのか?」
と分析してしまう自分がいます。
また、桃太郎は動物たちに“きびだんご”を渡して仲間にしますが、ここが重要なのです。きびだんごは
・当時は希少価値がある = 需要が高い
・行動のたびに支給される = 成果連動性が高い
つまり、合理的な成果報酬型インセンティブなのです。
桃太郎:「一緒に鬼ヶ島行かない?」
犬・猿・キジ:「きびだんご出るんですよね?」
完全に“報酬制度が定着した組織”の会話になっています。「鬼退治」という明確なパーパスがあるから、全員が“同じ目的地”に向かって進んでいきます。現代の組織でも同じで、優れたチームは“目的地”の解像度が高い。桃太郎がリーダーとして優秀だったのは、
・目的が明確
・役割が明確
・報酬が明確
・チーム編成がロジカル
という、PMとしてほぼ満点の動きをしていたからなのです。気づいたら子供に読み聞かせながら、「これ、完全に理想的なプロジェクトチーム組成だよな…」と分析してしまう自分がいました。
*⁵クロスファンクショナルチーム:
異なる部門や職種から、必要な知識やスキルを持つ人材を集めて構成されたチームのこと。大規模なIT導入など、全社横断プロジェクトで結成されることが多く、コンサルタントは、PMOとしてプロジェクトの推進・調整・課題解決を支援し、成果創出に導きます。
結局、絵本は“ミニビジネスケース”の宝庫だった
不思議なもので、子供の絵本はどれもシンプルな物語のはずなのに、コンサル視点で読むと、本質的なテーマが浮き上がってきます。もはや絵本とは、「子供向けビジネスケーススタディ」なのかもしれません。そして、絵本を読みながら「これ、組織論で言うと…」と語り出してしまい、子供に「ねえパパ、まだ読んでる途中だよ」とツッコまれるのも、コンサルの宿命なのかもしれません。
[v331]
執筆者
- コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社
執筆者
- コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社



















