コンサルファームやコンサル業界の情報サイト | コンサルのあんなこと、こんなこと

読了まで 9

GXとは?150兆円市場へ【コンサルファームのGX動向】

GXとは?150兆円市場へ【コンサルファームのGX動向】

脱炭素社会に向け大競争時代到来。GXが国際競争力の前提条件に

近年、海面上昇・洪水や豪雨、気温上昇といった異常気象が多発し、気候変動は深刻さを増しています。これまでにも、温暖化対策としてCO2やメタンなどの温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「脱炭素(カーボンニュートラル)」への取り組みが行われてきましたが、最近は「GX(グリーントランスフォーメーション)」への関心が高まっています。本記事では、GXの基本的な概念、政府の戦略や取り組み、そしてコンサルティングファームの GXに関する動向を解説していきます。

GXの定義と概要

GXとは「Green Transformation(グリーントランスフォーメーション)」の略称で、環境に配慮した持続可能な社会や経済システムへの転換を指します。単に化石燃料をクリーンエネルギーに切り替えるだけでなく、それによって起こる産業や社会の構造の変化や再構築までを含めた取り組みです。

従来の環境対策が主に規制対応や社会的責任の観点から行われていたのに対し、GXは環境への取り組みを企業の成長戦略や競争力強化と結びつける点が大きな特徴です。

【GXの背景】
GXが注目される背景には、以下の要因があります。

要因1 気候変動問題の深刻化
地球温暖化の進行により、異常気象や自然災害が増加し、世界的な危機感が高まっている。
要因2 国際的な環境規制の強化
パリ協定をはじめとする国際的な取り決めにより、各国で環境規制が強化されている。
要因3 ESG投資の拡大
環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)を重視する投資家が増加し、企業の環境対応が投資判断の重要な要素となっている。

【GXの主要分野】
GXは以下の主要分野を中心に展開されています:

  1. 再生可能エネルギー:太陽光、風力、地熱など、クリーンエネルギーへの移行。
  2. エネルギー効率化:省エネ技術の導入、スマートグリッドの実装など。
  3. サーキュラーエコノミー:資源の再利用、リサイクル、廃棄物削減の推進。
  4. 電気自動車(EV)と次世代モビリティ:環境負荷の少ない交通手段への転換。

DX、SX、GXの違いは?

DX、GX、DXはそれぞれ異なる変革(トランスフォーメーション)を指す用語ですが、しばしば相互に関連しています。

【SX (Sustainability Transformation)】
SXは、最も包括的な概念です。企業や社会全体の持続可能性を追求し、環境、社会、経済の調和を目指します。ESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を統合し、長期的な視点で事業を展開することが求められます。

【GX (Green Transformation)】
GXは、SXの重要な一部を成す概念で、特に環境面での変革に焦点を当てています。気候変動対策や循環型経済の実現など、地球環境の保護と事業活動の両立を目指します。2050年カーボンニュートラル宣言*などの政策とも密接に関連しています。
* 第三章で解説

【DX (Digital Transformation)】
DXは、デジタル技術を活用して企業の業務プロセスやビジネスモデルを変革することを指します。効率化や新たな価値創造を通じて、企業の競争力強化を図ります。また、DXはSXやGXの実現を支援する重要なツールともなります。

以下は、各々の定義と主な違いを簡潔に説明した表です。

項目 SXGXDX
定義持続可能性を重視した企業や社会の変革環境負荷低減を目指す変革    デジタル技術を活用したビジネスモデルや組織の変革
焦点環境、社会、経済の持続可能性全般主に環境面での持続可能性デジタル技術の活用による効率化や新たな価値創造
範囲環境保護、社会的責任、ガバナンス(ESG)を包括脱炭素化、再生可能エネルギー、循環経済などAI、IoT、ビッグデータなどの先端技術の導入と活用

これら3つの変革の関係性をより具体的に説明すると

  1. SXの実現にはGXが不可欠:環境負荷の低減なくして、真の持続可能性は達成できません。GXはSXの重要な構成要素といえます。
  2. DXはSXとGXの推進力:デジタル技術の活用により、環境モニタリングの精度向上や効率的な資源管理が可能になります。これにより、GXの取り組みが加速され、ひいてはSXの実現にも貢献します。
  3. 統合的アプローチの重要性:これら3つの変革を個別に推進するのではなく、統合的に取り組むことで、相乗効果を生み出すことができます。例えば、AIを活用した省エネ管理システム(DX)により、CO2排出量を削減(GX)し、企業の持続可能性を高める(SX)

といった具合になります。

次章ではGXにおける政府の取り組みを解説していきます。

日本政府のGX戦略

日本政府は2020年に「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表し、GXを国家戦略として位置づけました。具体的には、グリーンイノベーション基金の創設、カーボンプライシングの導入検討、再生可能エネルギーの主力電源化などの政策を打ち出しています。

【2050年カーボンニュートラル宣言とは】
日本政府が2020年10月に発表した環境政策で、以下の内容を含む長期的な目標です。

目標年 2050年
主な目標 温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする
意味
 ・排出される温室効果ガスと吸収される温室効果ガスの量を均衡させる
 ・全体としての排出量をゼロにする
背景
 ・内閣総理大臣所信表明演説において、日本の成長戦略の柱として経済と環境の好循環が掲げられた
 ・パリ協定の目標達成に向けた日本の具体的な行動指針
主な施策
 ・再生可能エネルギーの主力電源化:太陽光、風力、水力、地熱などの再生可能エネルギーの割合を2030年までに36-38%に引き上げることを目指す。
 ・省エネルギーの徹底:エネルギー消費を削減することを目指す。具体的には、建物や工場のエネルギー効率化、スマートグリッドの導入、エネルギー管理システムの強化などが含まれる。
 ・水素社会の実現:水素エネルギーの利用を促進し、カーボンフリーのエネルギー源としての水素の普及を目指す。水素製造の技術開発、インフラ整備、水素ステーションの設置、産業界での水素利用推進などが主要な施策となっている。政府は、2030年までに年間約300万トンの水素を供給する目標を掲げている。
 ・次世代自動車の普及促進:2035年までに新車販売のすべてを電動車にする目標を掲げ、補助金やインフラ整備を行う。

さらに、2022年5月に岸田首相が今後10年間にGX分野へ150兆円を超える大規模な投資を官民合わせて進めていくことを表明し、同年に首相を議長としたGX実行会議が設置されました。GX実行会議ではGX実現に向けた基本方針を取りまとめ、2023年5月には「GX推進法」「GX脱炭素電源法」が成立しました。この法律をもとに政府は、2023年度から10年間でおよそ20兆円の「GX経済移行債」を発行し、カーボンニュートラル実現の期限である2050年までに償還するとしています。

[GX推進法とは]
カーボンニュートラル等の国際公約と、産業力強化・経済成長を同時に達成するため、産業界全体のGXを促進することを目的としています。主な内容は、「GX推進戦略の策定」「GX経済移行債の発行」「成長志向型カーボンプライシングの導入」「GX推進組織の設立」、そして「進捗評価と必要な見直し」です。

[GX脱炭素電源法とは]
「脱炭素電源の利用促進」と「電気の安定供給の確保」の二つを目的とした、再エネ特措法や原子力基本法などの法改正に関する法律です。「地域と共生した再エネの最大限の導入促進」「安全確保を大前提とした原子力の活用」を目指し、再エネ利用促進のための追加投資や原子力発電の利用に係る原則の明確化が盛り込まれています。

また、2023年2月には経済産業省の主導でGXリーグが設立されました。GXリーグは、2050年カーボンニュートラル目標達成に向けた官民一体の新たな枠組みです。参画企業の直接排出量の合計は、日本の温室効果ガス排出量の5割超を占めており、事業活動における排出量削減と、GXの実現に向けた取り組みを行っています。

メンバー企業は、自ら排出削減目標を設定し、排出量取引市場で排出量を売買します。すでに試行が始まっており、2023年10月に東京証券取引所ではカーボン・クレジット市場を開設。2026年度から本格稼働する予定ですが、開設から8日間の累計売買高は1万トンを超えたそうです。さらに、官民一体となって新市場に向けたルール形成を行ったり、業種を超えて対話や交流を行ったりすることで2050年カーボンニュートラルの実現を目指します。

各コンサルティングファームのGX動向

先に紹介した GXリーグへは、現在以下のコンサルティングファームが参画しています。

・EY Japan株式会社
・KPMGコンサルティング株式会社
・デロイトトーマツ コンサルティング合同会社
・PwC Japan合同会社
・アビームコンサルティング株式会社
・株式会社野村総合研究所
・株式会社ベイカレント・コンサルティング
・株式会社船井総研ホールディングス
・SCSK株式会社
・株式会社電通総研
・株式会社ドリームインキュベータ
・株式会社三菱総合研究所
(GXリーグ:参画企業一覧 )

GXやサステナビリティに関する各ファームの動きとして、各社から公開されている情報を一部を紹介します。

【アクセンチュア】
アクセンチュアは東芝と連携し、企業のGXを推進するサービスを開始しました。両社は温室効果ガス(GHG)排出量が多い業界、エネルギーマネジメントの効率化が求められる企業に対して、カーボンニュートラルの実現に向けた戦略策定から実行段階に対するGXコンサルティングサービスを提供します。
(アクセンチュア ニュースリリース

【PwC】
PwCは、2023年11月にエネルギーの専門性と多様な業界知見を併せ持つGX人材を結集した横断組織を設立したことを発表しています。
(PwC ニュースルーム
また、同社では企業のサステナビリティ経営を総合的に支援する専門チーム「サステナビリティ・センター・オブ・エクセレンス」を2020年に立ち上げております。
(PwC Japanグループ 採用情報

【デロイト】
デロイトは、環境省が実施する「令和6年度バリューチェーン全体での脱炭素化支援事業委託業務」を受託し、複数主体による取組や業界横断での連携モデルを創生し、バリューチェーン全体でのGHG排出削減を支援しています。
(デロイト トーマツ お知らせ)
また、同社は2017年より経営戦略分野でJリーグと提携しており、Jリーグにおける脱炭素化やサステナビリティについて、Jリーグ・環境省・デロイト執行役員の対談記事がとても興味深いので、時間がある方は読んでみてください。
(デロイト トーマツ Blog)

【EY】
EYは、野村ホールディングスを幹事とする6社のリーダー企業及び73社のメンバー企業とともに「GX経営促進ワーキング・グループ」の設立を2022年10月に発表しました。同組織は、GXリーグにおける、官民でのルール形成を行うためのメカニズムを実証する「市場創造のためのルール形成」に関する取組の一環として位置づけられており、日本企業が提供する製品・サービスを通じた気候変動への貢献を適切に評価する仕組みを構築することを目的としています。
(EY ニュースリリース

【KPMG】
2024年6月GX領域の新規事業開発について、事業構想の策定から推進体制の構築および実行までワンストップで支援するサービスの提供を開始したことを発表しました。
(KPMG ニュースリリース

【マッキンゼー】
発電最大手のJERAは、企業のGX推進を一括支援するサービスを提供する「JERA Cross」を設立。マッキンゼーはJERA Crossが提供する脱炭素ソリューションにおいて協力する契約を締結しました。マッキンゼーが有するグリーンビジネス構築に関する専門知識と企業変革にかかわる実績を活かします。
JERA’s ACTION

【BCG】
BCGは、経産省からの委託を受け「GXスタートアップの創出・成長に向けたガイダンス~初期需要確保とファイナンスの多様化~」の作成支援を行なっています。
(BCG Press Releases
その他にも、「GX促進に向けたカーボンフットプリントの製品別算定ルール策定支援事業」等にも経産省から委託され政府とのルールの確立に深く関わっています。
(BCG Press Release

まとめ

GXは、これまでの脱炭素化における経済活動とトレードオフの概念ではなく、経済活動と環境保護のバランスをとって、「両立」させることで、社会の持続的発展を目指す活動です。

日本政府も2050年カーボンニュートラルを目標に、GX推進法やGX脱炭素電源法を制定し、官民が一体となって取り組む環境づくりを進めています。また、GXリーグ参画企業をはじめとした企業や自治体による先進事例をもとにルール策定を行い、2026年からの排出量取引の本格稼働を目指しています。

コンサルファームにおいても、政府を通じたルール策定や企業のアライアンスをもとに、 GXにおける支援を本格化しており、社内外・官民の垣根を超え GX支援を推し進めています。

[v277]

執筆者

K.G.
前職ではコダワリ・ビジネス・コンサルティング社にて社長秘書・営業部長を歴任。退職後は海外を拠点に多国籍企業のコンサルティングに特化したフリーランスコンサルタントとして、IT戦略、ビジネスプロセス改善、組織再編に関する専門知識を活かし、クライアントに対してデジタル変革と効率化の推進を支援している。
最新のグローバルトレンドと戦略的思考を強みにコダワリ社の理念であるGNH量産に奔走している。
  • RSS
  • 著書紹介

  • 図解即戦力 コンサルティング業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書
  • Twitterはじめました
  • メールマガジン登録

    いち早く最新の記事やニュースをお届け致します。登録は完全無料となります。

著書紹介

図解即戦力 コンサルティング業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書
Twitterはじめました

おすすめサービス

あなたはどっち派?自分に合う働き方を相談したい

執筆者

K.G.
前職ではコダワリ・ビジネス・コンサルティング社にて社長秘書・営業部長を歴任。退職後は海外を拠点に多国籍企業のコンサルティングに特化したフリーランスコンサルタントとして、IT戦略、ビジネスプロセス改善、組織再編に関する専門知識を活かし、クライアントに対してデジタル変革と効率化の推進を支援している。
最新のグローバルトレンドと戦略的思考を強みにコダワリ社の理念であるGNH量産に奔走している。

PICKUP注目記事

  • 送る
  • URLコピー
  • メールマガジン登録

    いち早く最新の記事やニュースをお届け致します。登録は完全無料となります。

RANKING人気記事ランキング

一覧

NEWS新着ニュース

一覧

PICKUP注目記事

  • おすすめサービス

  • あなたはどっち派?自分に合う働き方を相談したい

BACK TO TOP

BACK TO TOP