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ガートナー社の「ハイプ・サイクル」とは何か?(基礎編)|見方や役立て方を解説

ガートナー社の「ハイプ・サイクル」とは何か?(基礎編)|見方や役立て方を解説

コンサルタントにとって、ITトレンドを抑えておくことは必須。テクノロジーの盛衰を見極める「ハイプ・サイクル」の見方を解説します。

昨今のDX過熱の中、経営コンサルティングや業務コンサルティング等でさまざまな企業様へ支援実行する中でIT動向を調査することがあります。調査ソースの1つとして、Gartner社が発行するハイプ・サイクルを活用することも多いです。IT関連のコンサルティングに携わる中で一度は見た、という方も多いのではないでしょうか。

このハイプ・サイクル、Gartner社の企業サイトを確認すると、一種類ではなくいろんな種類が存在することが分かります。本投稿では、そもそもハイプ・サイクルとは何か、どのようなことに留意してどう見ればいいのかを知りたい方向けの参考情報になります。

そもそもハイプ・サイクルとは?

Gartner社が様々なテクノロジを分野化して、テクノロジの成熟度や今後の動向分析から未来予想した情報です。各企業は自社のビジネスにテクノロジを採用すべきか検討する際に、享受メリットや採用に伴うリスク、自社のケイパビリティ、などを勘案しながら投資判断のヒントを得ることができます。

Gatner社の企業サイト によると、ハイプ・サイクルは全世界で毎年発行されていて、その数は毎年100以上にのぼるそうです。1999年には“e-business Hype Cycle”というハイプ・サイクルが発行され歴史は20年以上と長いことが分かります(2022年9月15日閲覧時点)。

ガートナー・ジャパンの企業サイトから確認可能なハイプ・サイクル種類

ガートナー・ジャパン社のサイトではハイプ・サイクルの一部についてはその存在を確認することが可能です。本投稿前の確認時にはハイプ・サイクル31種類の存在を確認できました。

その構成は、インフラ/オペレーション(13)、セキュリティ(6)、アプリ/SWエンジ(10)、ソーシング/調達/ベンダー管理(1)、CIO/ITマネジメント(1)となっています。

このうち、ハイプ・サイクル名から日本向けと思われるものは21本になります。100以上のハイプ・サイクルが毎年発行されていることを踏まえると、日本などリージョンや特定の国・地域にフォーカスした内容のハイプ・サイクルはそれなりの数になりそうだと推測できます。

また、特定のカテゴリ下でも名前が似たハイプ・サイクルがあり(例:セキュリティ)、一つのハイプ・サイクルに納まりきれないほど多種多様であることが分かります。

ハイプ・サイクル一覧 2021-2022年レポート一覧 (2022年9月12日時点)

社名 ハイプ・サイクル名
インフラ/オペレーション 日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022年
日本におけるクラウドとITインフラストラクチャ戦略のハイプ・サイクル:2022年
デジタル・ビジネス・ケイパビリティのハイプ・サイクル:2021年
クラウド・オペレーション、監視、可観測性のハイプ・サイクル:2021年
I&O自動化のハイプ・サイクル:2021年
現場ワーカー向け革新テクノロジのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるエッジ・コンピューティングとIoTのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるITオペレーションとDevOpsのハイプ・サイクル:2021年
アジャイルとDevOpsのハイプ・サイクル:2021年
先進テクノロジのハイプ・サイクル:2021年
日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるクラウドとインフラストラクチャ戦略のハイプ・サイクル:2021年
日本におけるユーザー・エクスペリエンスのハイプ・サイクル:2021年
セキュリティ 日本におけるセキュリティ (ID/アクセス管理、セキュリティ運用) のハイプ・サイクル:2022年
日本におけるセキュリティ (アプリ、データ、プライバシー) のハイプ・サイクル:2022年
日本におけるセキュリティ (インフラ、リスク・マネジメント) のハイプ・サイクル:2022年
日本におけるセキュリティ (アプリ、データ、プライバシー) のハイプ・サイクル:2021年
日本におけるセキュリティ (インフラ、リスク・マネジメント) のハイプ・サイクル:2021年
日本におけるセキュリティ (デジタル・ワークプレース) のハイプ・サイクル:2021年
アプリ/SWエンジ 日本におけるCRM/CXのハイプ・サイクル:2022年
日本における未来のアプリケーションのハイプ・サイクル:2022年
日本におけるデータとアナリティクスのハイプ・サイクル:2022年
人工知能のハイプ・サイクル:2021年
日本における未来のアプリケーションのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるCRM/CXのハイプ・サイクル:2021年
ブロックチェーンのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるデジタル・ワークプレースのハイプ・サイクル:2021年
日本におけるデータとアナリティクスのハイプ・サイクル:2021年
ERPのハイプ・サイクル:2020年
ソーシング/調達/ベンダー管理 日本におけるソーシングとITサービスのハイプ・サイクル:2021年
CIO/ITマネジメント理 スマート・シティ・テクノロジ/ソリューションのハイプ・サイクル:2021年

ガートナー・ジャパンの企業サイトで確認可能なハイプ・サイクルの内容

ハイプ・サイクルの内容を確認するには、Gartner社/ガートナー・ジャパン社と契約を結ぶ必要があります(ガートナー・ジャパン社:ジャパン・コア・リサーチ・アドバンス契約)。

ただし、いくつかのハイプ・サイクルについては、上記契約がなくともプレス・リリースから内容を確認することができます(2022年発行分では3つを確認)。

注目すべき先進テクノロジが明らかに!ガートナーの「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」(2022年9月4日)
Gartner、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表(2022年9月1日)
Gartner、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2022年」を発表(2022年8月16日)

ハイプ・サイクルの見方

ガートナー・ジャパン社の企業サイトによると、ハイプ・サイクルは、テクノロジの登場タイミングと市場期待値から5つのフェーズに分割されます。

ガートナー:ハイプ・サイクル「フェーズ」図
ガートナー ジャパン株式会社webサイト「ハイプ・サイクル」より引用

(1)黎明期

潜在的テクノロジ革新によって幕が開きます。初期の概念実証 (POC) にまつわる話やメディア報道によって、大きな注目が集まります。多くの場合、使用可能な製品は存在せず、実用化の可能性は証明されていません。

ガートナー ハイプ・サイクル | ガートナー (gartner.co.jp)

“海の物とも山の物ともつかぬ段階”です。

実際にハイプ・サイクルの内容を見るとわかりますが、“何それ?”と思うテクノロジが多くあります。例えば、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2021年」では、“双方向ブレイン・マシン・インタフェース”、“衛星コンステレーション”、“新しいビジネス・アーキテクチャ”というテクノロジが挙げられています。

企業様へのコンサルティングを実践する筆者としては“新しいビジネス・アーキテクチャ”が何ものかが気になるところです。

(2)「過度な期待」のピーク期

初期の宣伝では、数多くのサクセスストーリーが紹介されますが、失敗を伴うものも少なくありません。行動を起こす企業もありますが、多くはありません。

ガートナー ハイプ・サイクル | ガートナー (gartner.co.jp)

 “市場が浮足立った段階”です。

各種メディアはこぞって市場を盛り上げるために、必要以上に不安や心配ごと、問題や課題などを連想させて周りを急き立てることが多いと思われます。一方で、まだまだテクノロジの全容が明らかでなく事例も少ないケースが多いことから、テクノロジへの投資判断には一番注意が必要な時期と考えます。

ハイプの意味をいくつかのオンライン英和辞書で検索すると「誇大宣伝・誇大広告」といった意味になります。日常生活では「ワクワク、ドキドキ、テンションが上がる、興奮する」といった意味合いで使われることが多いようです。

つまり、ハイプ・サイクルは、平易に表すと「ドキドキ・ワクワクするサイクル」ということであり、当段階を映画鑑賞で例えるならば、映画公開前に各種メディアが発信するCM・広告を見て「映画館に足を運んで観てみたい!」といったドキドキ感と言ったところでしょうか。

(3)幻滅期

実験や実装で成果が出ないため、関心は薄れます。テクノロジの創造者らは再編されるか失敗します。生き残ったプロバイダーが早期採用者の満足のいくように自社製品を改善した場合に限り、投資は継続します。

ガートナー ハイプ・サイクル | ガートナー (gartner.co.jp)

 “テクノロジが市場ニーズに合わせる段階”です。

 “市場がテクノロジに合わせようとする”黎明期・「過度な期待」のピーク期から、このままでは無駄な投資になるとわかり始め、テクノロジ側が市場ニーズに歩み寄る段階になります。このため、“幻滅”というとマイナス・イメージから、そのテクノロジが使い物にならないと判断するのは時期尚早と解釈します。(筆者においては、ハイプ・サイクルの存在を知った当初、このフェーズにあるテクノロジは時代遅れで採用メリットないのではないか、と偏った考えでした)

同じハイプ・サイクルを複数年確認していくと、テクノロジが幻滅期に突入する中で、派生テクノロジが黎明期・「過度な期待」のピーク期に新登場するケースがあります。これは市場ニーズに合わせて進化したテクノロジの現れと解釈できます。

例えば、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」2019-2021年の3年分では、“AI”が幻滅期にある中、“汎用人工知能(Artificial General Intelligence、強いAI)”、“エッジAI”などが黎明期に登場します。

(4)啓発期

主流採用が始まります。プロバイダーの実行存続性を評価する基準がより明確に定義されます。テクノロジの適用可能な範囲と関連性が広がり、投資は確実に回収されつつあります。

ガートナー ハイプ・サイクル | ガートナー (gartner.co.jp)

“投資判断のハードルが下がり、より具体的に投資要否を判断可能な段階”です。

また、ハイプ・サイクルでは、各テクノロジが安定的に市場に投入するまでの期間についても予測してます。

  • 10年以上
  • 5~10年
  • 2~5年
  • 2年未満
  • 安定期に達する前に陳腐化

ハイプ・サイクルを確認する際の留意点

ハイプ・サイクルを確認する中で気づいた、確認する際の留意点をまとめます。

(1)プレス・リリースで確認可能なハイプ・サイクルには限りがある
「3.ガートナー・ジャパン社の企業サイトで確認可能なハイプ・サイクルの内容」で少し触れた通り、プレス・リリースからハイプ・サイクルの内容を確認可能です。但し、確認可能な内容には限りがあり、毎年プレス・リリースされるハイプ・サイクルもありますが、単年の発行だけのハイプ・サイクルもあります。

(2)ハイプ・サイクルの呼び名やカテゴリ
ハイプ・サイクルの名称やそのカテゴリがハイプ・サイクルの発行年で異なることがあるようです。例えば、「ブロックチェーン・テクノロジのハイプ・サイクル:2020年(カテゴリ:インフラ/オペレーション)」、「ブロックチェーンのハイプ・サイクル:2021年(カテゴリ:アプリ/SWエンジ)」は同じハイプ・サイクルと推測されますが、カテゴリやハイプ・サイクル名称が異なります。

ハイプ・サイクルは未来予想であり、年を追うごとにより情報量が蓄積され、情報の質も高まるため、適切にカテゴリを見直すことは自然なことだと考えます。

(3)テクノロジの名称
こちらも一つの呼び方とは限らないようです。分かりやすい例だと、IoT(Internet of Things)。「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル 2019-2021年」では、IoTそのものは“モノのインターネット”で表記されていますが、派生テクノロジである“IoTエッジ・アナリシス”や“IoTセキュリティ”では“IoT”で表現されています。

(4)サイクル通りに登場するとは限らない
テクノロジはハイプ・サイクルの始まりから終わりまで順序良く登場するとは限らないようです。また、サイクルの途中に突如として初登場する場合もあるようです。「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル」をみると以下のテクノロジが当てはまります。

  • “AIプラットフォーム”
    2020年に初登場(黎明期)、2021年には登場しない
  • “ブロックチェーンによるトークン化”
    2020年に初登場(「過度な期待」のピーク期)、2021年には登場しない、

(5)フェーズの呼び方に惑わされない活用をする
先述の通りフェーズ名は「黎明期、ピーク期、幻滅期、啓発期、安定期」という呼び方で定義されています。また、活用方法については以下の記載があります。

ハイプ・サイクルの活用法
ハイプ・サイクルを使用することで、業界と自社のリスク許容度に基づいて、最新テクノロジに何を期待できるのかを理解できます。

早期に採用するべきでしょうか?リスクを取ると同時に、「リスクの高い投資は必ずしも回収できるとは限らない」ことを理解できるのであれば、早期採用の見返りを得られる可能性があります。

穏健なアプローチを取るべきですか?穏健な経営幹部は早期投資の意見を理解するものの、実績が不十分な新しい方法については、健全な費用対効果の分析を強く要求します。

成熟度がさら高まるのを待つべきですか?最新テクノロジの実用化に関して解が見つからない問いが数多くある場合は、他社が目に見える価値を実現するまで待つべきかもしれません。

ガートナー ハイプ・サイクル | ガートナー (gartner.co.jp)

ピーク時期だから急いで投資すべし、幻滅期に突入したから投資価値無し、といった単純な判断ではなく、テクノロジの動向、企業の経営戦略、投資スタンスを踏まえて投資判断が必要、当解釈ができます。

終わりに

ハイプ・サイクルは種類が多く、内容を確認可能なものもある程度あり、確認できたとしてもなじみのないテクノロジ・キーワードも多く見受けられます。情報の海に流されないよう意識して確認することをおススメします。

では、実践編として実際にハイプ・サイクルを見た上での、分析・考察の見解を次週お届けしたいと思います。

[v173]

執筆者

S.M.
S.M.コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社 コンサルティングカンパニー
SIer・ITコンサルファームでのキャリアを積む。大規模システム刷新プロジェクトにおける業務要求定義からシステム導入運用まで幅広いフェーズや大企業でのDXにおけるPgMOのリーディングや実務をこなす。業務・IT双方へ精通し、関係者との迅速な関係構築のうえ、両面からの業務改革支援に強みを持つ。
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