
デロイト トーマツ「Technology Fast 50 Japan」18年分を大解剖!成長の傾向を分析してみた

今後5年で成長しそうなサービスも大胆予測
スマートフォン、サブスク動画、キャッシュレス決済――この10年で私たちの暮らしは大きく変わりました。
こうした“次の当たり前”の兆しを、定量的にいち早く映し出してきたのが、デロイト トーマツ グループが毎年発表している「Technology Fast 50 Japan」(以下、Fast 50)です。この調査は2005年から毎年実施・公開されており、TMT(テクノロジー・メディア・通信)領域の国内企業を対象に、過去3年間でもっとも売上を伸ばした企業50社をランキング形式で取り上げるものとなっています。なお、2025年1月22日に公開された「Technology Fast 50 2024 Japan」が最新版です。
今回、2007年から2024年までの18年分*¹を振り返り、この期間の変遷を3つの時期に分けて整理し、これから登場するビジネスの兆しについて考察します。なお、過去ランキングをチェックしていると、当時はまだそこまで知名度がなかったものの、現在では誰しもが知るようになった企業が出てきており、少々懐かしさも感じつつ、今回の調査執筆は面白いものであったことを付け加えておきます。
18年分*¹・・・PR TIMESなどのリリースや転載記事などで追うことのできた2007年版から2024年版までの18年間分を今回調査しています。
目次
1. 3つの時代で振り返る日本テック
過去18年分のランキングに登場した企業の事業内容と時代背景を照らし合わせると、2007年・2011年・2017年の3つのタイミングで節目が訪れていることがわかりました。そこで18年間をこの3ポイントで区切り、日本のテック業界の進化を整理します。
時代 | 主役になったサービス/技術 | 生活の変化 |
① 2007-2010 “ガラケー&ネット草創期” | 携帯向け SNS、着うた、オンラインゲーム | ケータイで暇つぶしが当たり前に。PC中心だったネットがポケットに収まった。 |
② 2011-2016 “スマホ&ソーシャル爆発期” | スマホゲーム、SNS、EC、クラウド | アプリで買い物・ゲーム・SNSが日常的に使われる。企業はクラウドを使いはじめ、メールよりチャットへ。 |
③ 2017-2024 “サブスク&DX加速期” | SaaS、AI、フィンテック、クリーンテック | 仕事でもプライベートでも月額サービスが浸透。コロナ禍でオンライン化が一気に進み、AIや脱炭素の話題が身近に。 |
① 2007–2010|ケータイがネットの入口だった時代
この時期は、携帯電話向けSNSや着うたサイトが急成長し、モバゲーで知られる《株式会社ディー・エヌ・エー》や《株式会社グリー》がランキング上位の常連となりました。当時はまだPCインターネットが主流でしたが、人々は「ネットを持ち歩く」スタイルへと軸足を移し始めています。
また、光通信部品やデジタルフォレンジック(デジタル調査)などを扱う、いわゆる“縁の下”を支える技術系企業も存在感を見せ始めます。たとえば、《ファイベスト株式会社(光ファイバー部品/2007年1位、成長率約6,500%)》などが代表例であり、テック産業の裾野が広がり始めた時期でもありました。
② 2011–2016|スマホシフトとアプリ経済圏の完成
iPhoneの普及をきっかけとした、スマートフォン向けサービスが一気に拡大した時期です。ソーシャルゲームやECアプリが急成長し、以下のような企業がランキング上位に登場しました。
《株式会社ジェイドグループ》: ECサービスであるロコンドを運営。成長率約6,643%を記録し、2013年に1位を獲得
《株式会社gumi》: スマートフォン向けゲームで急成長し、2012年に約4,000%の成長率で1位を獲得
同時期に、企業向けクラウドサービス(SaaS)もじわじわと広まり、《株式会社ジーニー》や《地盤ネットホールディングス株式会社》などが台頭します。オンプレミスからクラウドへ、メールからチャットへと、企業のITインフラが徐々に変化し始めました。
また、2015年以降にはAIやFintech(フィンテック)といったキーワードがプレスリリースに登場し始め、新たな技術トレンドの兆しも見えはじめます。代表例は以下の通りです。
《株式会社ZUU》: Fintech事業を展開。2016年1位、成長率約5,100%
《株式会社PKSHA Technology》: AIプロダクトを展開。2016年2位、成長率約2,607%
この時期はスマートフォンを中心にした“アプリ経済圏”が完成し、同時に次なるテクノロジートレンドの助走期間となったフェーズでした。
③ 2017–2024|サブスクが“当たり前”、DXが加速
この時期には、ランキングの6~7割をSaaS企業が占めるようになり、2019年にはFintech事業を展開する《株式会社カンム》が成長率約3,592%で1位を獲得。翌年は、SaaS企業(2020年当時)の《株式会社スタメン》・《株式会社カンム》・《株式会社A.L.I.Technologies》がいずれも成長率1,000%超を記録しています。
また、バックオフィスから工場ラインに至るまで、業務のクラウド化が一気に進みました。さらに、コロナ禍によって「非対面・リモート」需要が急増しました。直近では、クリーンテックやデジタルヘルスといった、「地球・健康」分野のスタートアップが存在感を増しています。
2. いま何が起きている?(2024年版トピック)
現在、スマートフォンの普及は飽和状態に達し、企業は差別化の手段としてクラウドやAIの活用に注力し始めています。また、コロナ禍を経て「非対面・リモート」が常態化。あらゆる業種・業態でオンライン化が進行し、さらに、脱炭素や人手不足といった社会課題が、テクノロジーによるイノベーションの原動力となっています。
こうした環境変化を受け、2024年版のFast 50では、次のような傾向が顕著に見られました。
まず、2024年の平均成長率は約690%と高水準を維持する中、1位の《株式会社mederi》は成長率1万%超を記録しました。同社は女性の健康課題に特化したD2C型サービスを展開しており、医療やヘルスケアが“個人の選択”に近づいていることを象徴しています。
「健康を自らマネジメントする時代」が、すでに市場として動き出していることが読み取れます。
次に、ランキングの6〜7割をSaaS企業が占めた点も注目です。かつては経理や人事などバックオフィス領域に集中していたSaaSですが、今では営業支援、製造、医療などの“現場業務”にも浸透しています。単なる業務効率化ではなく、業務そのものの再構築(Re-design)が進んでいることがうかがえます。
さらに、今年の特徴として、社会課題解決を掲げるスタートアップの台頭が挙げられます。《株式会社ネクイノ(オンライン診療)》や《TMB株式会社(再エネ管理)》など、リアル産業とテクノロジーの融合が進み、課題解決そのものが新たなビジネス機会となっている状況です。
これらの動きは、単なる技術進化ではなく、生活者・現場・社会の課題が、テクノロジーによって直接解決される構造への変化を示しています。
では、私たちの暮らしや働き方そのものに、どのような影響を与えているのでしょうか。主要なトレンドとそのインパクトを簡潔に整理すると、以下のようになります。
何が大事? | 私たちの暮らし・働き方への影響 |
サービスの“月額化”が加速 | プライベートの動画視聴も仕事の管理ツールもサブスク。買い切りより「使う分だけ払う」が当たり前に。 |
AIが裏方から表舞台へ | Chat GPTの登場で、文章作成や画像生成を個人が気軽に使える時代に。 |
環境&健康テックの台頭 | 再生エネルギー管理アプリやオンライン診療など、“地球とからだに優しい”サービスが次々登場。 |
3. これから5年、どんなサービスが伸びるのか?
過去18年のFast 50を振り返ると、社会の課題や生活スタイルの変化が、次の成長分野を生み出してきたことがわかります。
これを踏まえ、筆者は以下の4つの領域に注目しています。
選定の観点は次の通りです:
・直近のFast 50で兆しが見え始めている分野
・生活者・現場・社会課題への“実装力”を持つテクノロジー
・5年以内に“当たり前化”する可能性があるもの
■ 生成AI × 仕事効率化
なぜ注目か?
2023年以降、ChatGPTや画像生成AIの普及により、情報処理や企画業務が根本から変わり始めています。Fast 50にも生成AI関連のソリューション企業が登場し始めており、「人間の作業時間を減らす」から「判断を助ける」フェーズに入っています。
期待される変化:
企画書や画像制作がAIで高速化。人間は「作る」より「決める」ことに集中する時代へ。
■ 気候テック(Climate Tech)
なぜ注目か?
脱炭素や電力逼迫といった社会課題に直面する中、家庭・地域単位でのエネルギー最適化が求められています。Fast 50でも再エネ管理、蓄電制御といったスタートアップが台頭。国の補助金・制度改正も追い風になっています。
期待される変化:
エネルギー消費の見える化と最適化が進み、節電が“体験”として楽しくなる。
■ パーソナルヘルス(個別化医療・予防)
なぜ注目か?
医療費増加・健康寿命の延伸といった社会背景に加え、スマホやウェアラブル端末の普及が後押し。Fast 50でも、オンライン診療やD2C型の医療支援サービスが高成長を記録しています。
期待される変化:
血液検査予約やAIによる食事アドバイスなど、セルフケアが高度化・手軽化。
■ リアル×ロボット(現場自動化)
なぜ注目か?
人手不足が深刻化する中、物流・農業・製造現場での自動化ニーズが高まっています。Fast 50にもロボット制御や無人運搬の技術企業が登場。ハードとソフトの融合が加速しています。
期待される変化:
無人配送車や農業ドローンが本格普及し、現場の人手不足を補完。
注目キーワード | 期待される効果/影響 |
生成AI × 仕事効率 | 企画書や画像をAIが一発生成。「作業」から「判断」へシフト。 |
気候テック | 家庭や街全体のエネルギーをアプリで最適化。節電がゲーム感覚に。 |
パーソナルヘルス | スマホで血液検査予約、AIが食事アドバイス。健康管理がリッチ化。 |
リアル×ロボット | 無人配送車や農業ドローンが普及。人手不足を補う現場テクノロジー。 |
まとめ
ここまでFast50の過去18年を振り返ってきました。Fast 50 は、毎年 「まだ知られていないけれど伸びている会社」 を教えてくれています。10年前のスマホゲーム企業、5年前のクラウド企業、そして今年のAI・環境テック企業――
どれも5年後には「え、そんなの使っていて普通でしょ?」と言われるかもしれません。次に来るサービスをちょっと先取りするヒントとして、Fast 50 の行方を毎年チェックしてみてはいかがでしょうか。
なお、2025年版については2025年10月まで応募受付をしている状況ですので、年明けには新しいランキングが発表されるでしょうから楽しみです。
[v318]
執筆者
-
コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社
2025年入社のアナリスト。
学生時代に上場企業の経営企画室で2年間、M&Aとアライアンスを担当し、案件を最後までやり切る実行推進力を培った。
これらの経験をから得た、実行推進力 を武器に、クライアントの企業価値向上を目指し、頼られるコンサルタントになるべく、ロジカルシンキングと業界知見を日々研鑽中。
休日は美食と温泉を巡る旅でリフレッシュし、新たな発想を得ている。
執筆者
-
コダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社
2025年入社のアナリスト。
学生時代に上場企業の経営企画室で2年間、M&Aとアライアンスを担当し、案件を最後までやり切る実行推進力を培った。
これらの経験をから得た、実行推進力 を武器に、クライアントの企業価値向上を目指し、頼られるコンサルタントになるべく、ロジカルシンキングと業界知見を日々研鑽中。
休日は美食と温泉を巡る旅でリフレッシュし、新たな発想を得ている。