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「メタバース」活用が進む建設業界の取り組みとは | コンサル案件急増中
コンサル案件でも増える建設業界×メタバースはどういう取り組みがあるのか?
メタバースというキーワードが出てきてから、コンサルティング業界でもメタバース案件が増えてきました。メタバースの裾野は広く、様々な業界に関わりがありますが、メタバース活用が重要な産業の1つに建設業界があります。
メタバースと建設業界にはどのような関係があるのか、なぜ建設業界はメタバース活用が必要なのか、そしてその具体的な日本企業の取り組みについて整理しています。
目次
そもそもメタバースと建設業界の関わりは?
メタバース(Metaverse)とは、リアルの世界とは異なる、コンピューター上に構築された仮想的な空間を指す言葉です。「超越」を意味する「Meta」と「世界」を意味する「Universe」を組み合わせた造語となっています。旧Facebook社がMeta社という名前に変えたことで、一躍話題になりました。では、このメタバースと建設業界にはどのような繋がりがあるのでしょうか?
建設業界では、これまでも新しいテクノロジーとしてxR技術の活用や様々なシミュレーション技術などの活用を模索してきました。広くとらえると建設業におけるDX化であり、積極的に研究開発や実証実験が進められています。その中でも仮想・デジタル空間やアバターを活用する取り組みが「メタバース」の領域として捉えることができます。つまり、最近新しい取り組みが突然始まったわけではなく、以前から様々な形で建設業界では研究開発の一環で取り組まれていましたが、メタバースというキーワードの登場で、よりこうした取り組みに注目が集まるようになっているという背景があります。
建設業界にとってなぜメタバースが重要なのか?
建設業界では、近年、労働者不足への対応や生産性の向上、そして現場の安全性向上がますます重要になっています。国土交通省が平成27年に発表した「建設現場の生産性に関する現状」では、建設業界ではこれまで労働力過剰を背景として、現場での生産性向上の取り組みが進まなかったこと、依然として多い建設現場での労働災害、そして将来的には高齢化を背景として労働力不足になることを業界の課題として挙げています。
こうした建設業界の課題に対して、メタバースは様々な接点があり、課題解決に貢献できる可能性があります。
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国内建設業界のメタバース活用事例
それでは国内建設大手企業のメタバース活用事例について見ていきましょう。
[仮想空間・高度シミュレーションを活用した設計検討効率化]
(1) 奥村組:メタバース上にモックアップを構築して増改築工事の検討を効率化
奥村組は、2021年12月に茨城県つくば市にある奥村組技術研究所内施設の室内環境実験棟を活用し、「メタバース技術研究所(仮想空間上のモックアップ (※1))」を構築したことを発表しました。
奥村組技術研究所では、免震技術の開発やICTやロボット、i-Construction(※2)、BIM(※3)の活用による設計・施工業務の効率化・省力化など様々な研究を行っています。
この研究所では、年間を通じて各種実験のための増改築工事が予定されていますが、増改築工事においては作業の手戻りを減らすため、モックアップを作成して施工検討を行います。
このモックアップでは、現実に近い素材を活用して実現する実寸大モックアップや、3Dプランターで縮尺を変えて製作する縮尺版モックアップを作りますが、モックアップ作成コストや作成の困難さなどの課題がありました。
こうした増改築工事におけるモックアップ製作の課題を解決するために、奥村組はバーチャル空間上でモックアップを構築して、施工検討を行うことができるメタバース技術研究所を構築しました。メタバース上のVRシミュ―レーションを活用して、増改築工事の検討精度を向上させて、工数削減を目指すという取り組みとなっています。
(※1)モックアップとは、外観や建物機能の検討や確認を目的に試作する模型のこと。
(※2)i-Constructionとは、調査・測量から設計・施工・維持管理までのあらゆるプロセスにICTを導入し、建設生産システム全体の生産性向上を図る取り組み。
(※3)BIMとは、Building Information Modeling(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を表し、建築検討の初期段階に、バーチャル上で建物の構築を行うことで、設計や施工のミスと工数を減らすことを目的としたシステム。
(2) 鹿島建設:BIMデータを活用した火災避難シミュレーション
鹿島建設は、2014年にBIMデータを活用した火災時の高度な避難シミュレーションシステム「PSTARS」を開発しました。
従来、熱・煙と人の動きを別々にシミュレーションしていたことから、大規模施設や特に複合開発が行われているエリアにおける精度の高い避難安全性の検討が困難であったという課題がありました。
このPSTARSは、火災時に熱・煙が変化することによる人の行動への影響を考慮する高度なシミュレーションを実現することで、火災時の歩行者の安全性・円滑性に配慮した施設計画立案に活かすことを狙っています。
2021年11月には、ホロラボ社が同システムのMicrosoft HoloLens 2版を開発支援したことも発表されました。より産業の現場での使用を重視したデバイスであるHoloLens 2に対応したことで、機動性と利便性が向上したとしています。
[VRや触覚フィードバックを活用した施工安全性向上・効率化]
(3) 大林組:ハプティクス(触覚)技術を活用して遠隔作業するシステムを開発
大林組は2021年3月に、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートハプティクス研究センターと共同で、左官作業(※4)における手の動きや力、力触覚を再現可能な建設技能作業再現システムを開発したことを発表しています。
近年、建設現場ではAIによる画像認識の活用などにより、建設機械の遠隔操作や自動化が積極的に進められています。しかし建設作業には、建築材料をコテで感じながら建築物に塗る「左官作業」など、視覚に加えて力触覚を用いる作業も多く、遠隔操作や自動化を進めるうえで、触覚フィードバックが重要になっています。
大林組は視覚情報と力触覚情報を用いて、遠隔での左官作業が可能となる建設技能作業再現システムを開発しました。下記の動画では、人が操作するマスター側と、現場で動作するコテを設置したアバター側があり、人がアバターを遠隔操作する様子が見て取れます。
(※4) 左官作業とは、建築物の壁や床などの下地造りや仕上げを行う作業のこと。セメントと砂を水で練ったモルタルや、壁土などの建築材料を塗る作業であり、職人が現場で行うもの。
動画では人が操作するマスターと現場で動作するアバターが近くに配置されていますが、2021年9月には500km離れた大阪と埼玉での遠隔操作の実証実験にも成功しています。こうした触覚フィードバックの技術の活用も、メタバース普及にとって非常に大事な要素となっています。
(4) 大成建設:VRを活用したコンクリート吹付作業の遠隔操作技術の開発
大成建設は2019年7月に、山岳トンネル工事において、切羽(採掘場のこと)でのコンクリート吹付作業に使用する遠隔操作技術「T-iROBO Remote Shotcreting」を開発したことを発表しました。
このトンネル工事におけるコンクリート吹付作業というのは、施工者が吹き上がりの状況を目視で確認しながら、吹付機をリモコンで操作していました。しかし、土砂の崩落や吹付材の跳ね返り等による危険性などの課題がありました。
山岳トンネル工事での作業の安全性向上と環境改善を図るため、大成建設はVRを活用したコンクリート吹付作業の遠隔操作技術を開発しました。このシステムはHMDと魚眼レンズ付きカメラ2台を組み合わせています。吹付機操作者は施工場所から十分離れた位置で、臨場感を持って吹付作業を行うことが可能になります。
[MRを活用した施工管理や検査の効率化]
(5) 大林組:MRを活用した仕上げ検査業務の効率化
大林組は2021年4月に、MR(Mixed Reality:複合現実)技術を利用し、実際の施工場所にBIMデータを重ね合わせて表示するアプリケーション「holonica(ホロニカ)」を開発したことを発表しました。
実際の現場で、BIMデータを重ねて表示することで、現地での設計情報確認、検査記録作成といった施工管理を効率化することを狙っています。
同社によると、実際にこのシステムを、内装仕上げ検査業務で検証し、従来の紙図面を使った仕上げ検査と比較して約30%の時間を短縮できることを確認しました。内装仕上げ検査業務は、階や部屋ごとに細かな設計の違いがあり情報の参照や記録が煩雑となることが生産性向上における課題となっていました。今後は、施工計画時の合意形成や躯体工事の出来形(できがた)の確認、竣工後の維持管理業務など、多くの場面で活用が期待できるようです。
(6) 鹿島建設:リコーとVRを活用した遠隔現場管理の取り組みを開始
鹿島建設は、2021年6月に国土交通省北陸地方整備局発注の、新潟県の大河津分水路新第二床固改築Ⅰ期工事において、リコーが開発した「リコーバーチャルワークプレイス」を導入したことを発表しました。
このシステムはバーチャルリアリティ空間に多人数が同時にリモート接続できるシステムとなっており、BIM/CIM(※4)モデル、点群データ、現場カメラのライブ配信映像をVR空間内で共有し、多拠点で遠隔からコミュニケーションや意思決定を行うものとなっています。
これまでは建設工事現場では、複数の関係者が同じ建物に集まり、現場で確認しながら意思決定を行う場面が主でしたが、生産性向上やコロナ禍での新しい働き方から、VRシステムの活用に繋がっています。
この取り組みはさらに発展しており、2021年12月に、360°カメラ「RICOH THETA」とライブストリーミングサービス「RICOH Live Streaming API」を適用することで、VR空間内のコミュニケーションを360°ライブ映像で行える機能を追加しています。
※4 CIMとはConstruction Information Modeling/Management(コンストラクション・インフォメーション・モデリング/マネージメント)と表し、土木分野において、計画段階から3Dモデリングを導入することで、初期の検討やその後の施工・管理を効率化することを目的とするシステム。建築分野で広がりつつあるBIMの概念を土木に応用したもの。
[採用や教育への活用]
(7) 清水建設:インターンシップにVRを活用
清水建設は、VR/MR配信プラットフォームを展開しているアルファコードのVR技術による遠隔リアルタイム配信機能・双方向コミュニケーション技術を、オンラインセミナー・インターンシップに導入しました。
従来、建設会社は学生のインターンシップで実際の現場を使って実施していました。しかし、コロナ禍ではこうした実地でのインターンシップが困難になっているという課題があります。
清水建設は、VRと双方向コミュニケーション技術を導入し、学生それぞれがVRによって自分の興味ある場所を見ながら、現場担当者の補足説明をその都度確認できる仕組みとしました。2020年9月・10月に実施したVRインターンシップには約500名の学生が参加し、アンケートに回答した学生の91.5%が「良い・非常に良い」という高評価となりました。
(8) 大林組:VR技術を活用した施工管理者向けの体験型研修を教育に活用
2016年に、大林組はVR技術を用いた施工管理者向け教育システム「VRiel(ヴリエル)」を、VRコンテンツ制作企業の積木製作に製作を依頼し、開発したことを発表しています。
大林組では、以前より建設現場での鉄筋配置の不具合防止など、管理技術の伝承を目的とした体験型研修を現場で行っていました。しかし、柱や梁などの構造部材を表現した図面である一般的な構造図では、すべての鉄筋の配置を表すことは難しく、細かい仕様は標準配筋図という、より詳細な図面を参照する必要があります。そのため、施工管理者は、標準配筋図を頭に入れておくとともに、工事現場を見て不具合箇所に気付く感性も身につける必要がありました。
そうした施工管理者の教育のために、実際に鉄筋や型枠を組んだモックアップを構築し、鉄筋配置の不具合箇所を探す体験型研修を実施していました。一方で、不具合箇所が固定されているため受講者が繰り返し研修を受講することは難しく、モックアップを作りかえるにしてもコストや時間がかかるといった課題がありました。
大林組が開発したVRielでは、BIMデータとVRを活用し、様々な現場をバーチャル空間に構築し、受講者がVR上を動き回る中で不具合を見つけることを可能にしています。2022年7月には、製作元の積木製作が外部企業向けにもVRielの販売を開始したことを発表しています。
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メタバース×国内建設業界のまとめ
このように、建設業界においてメタバースの活用はすでに始まっており、主要企業は様々なテーマで研究開発や実証実験、実用化に取り組んでいます。現在の取り組みはまだ多くが実証実験フェーズですが、一部では実用も開始している状況です。
まとめると以下のようなユースケースを紹介しました。
A.仮想空間・高度シミュレーションを活用した設計検討効率化
(1) 奥村組:メタバース上にモックアップを構築して増改築工事の検討を効率化
(2) 鹿島建設:BIMデータを活用した火災避難シミュレーション
B.VRや触覚フィードバックを活用した遠隔操作
(3) 大林組:ハプティクス(触覚)技術を活用して遠隔作業するシステムを開発
(4) 大成建設:VRを活用したコンクリート吹付作業の遠隔操作技術の開発
C.MRを活用した施工管理や検査の効率化
(5) 大林組:MRを活用した仕上げ検査業務の効率化
(6) 鹿島建設:リコーとVRを活用した遠隔現場管理の取り組みを開始
D.採用や教育への活用
(7) 清水建設:インターンシップにVRを活用
(8) 大林組:VR技術を活用した施工管理者向けの体験型研修を教育に活用
今回事例で見たように、メタバースは建設現場における生産性や安全性向上に大きく関わりがあり、今後の活用が期待されます。設計検討から施工・施工管理、仕上げ検査、運用など、建物を建設する工程に幅広く関わるため、どのようにこのメタバースを活用していくのか、戦略性も問われるでしょう。
今後、実証実験の結果や、ユースケースに関する発表も増えてくると想定されるため、引き続きその動向を注視したいと思います。
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