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コンサルが支援する「地方創生」プロジェクト事例7選
少子高齢化や企業の減少など地方に存在する多様な課題に対するコンサルファームの支援とは?
「なぜコンサルファームは地方創生に力を入れるのか。」
多くのファームが、大企業を対象としたコンサルティング支援のみならず、自治体支援や地域活性化、DXなど「地方創生プロジェクト」を推進しています。
利益効率だけを考えれば、大企業が集中する都市部の案件の方が合理的。それでも多くのファームが参入する背景には、どんな狙いや意図があるのでしょうか。本記事では、その背景や狙いを解説するとともに、具体的なプロジェクト事例7選を紹介。地方課題に向き合う方、自治体の方、またはコンサルタントとして地方創生に関わりたい方にとって、次のアクションの参考になれば幸いです。
目次
地方自治体へのコンサルティングはどのような種類があるのか?
地方創生とは、東京などの都市部への人口集中を是正し、各地域で住みやすい環境を確保しながら、日本全体の活力を長期的に維持していくことを目指す政策です。人口減少や産業衰退など多様な課題が顕在化している地方においては、その課題解決が急務であり、解決に向けてコンサルティングファームも貢献しています。
地方自治体に対するコンサルティングは、以下3種類に大別することができます。
①個別課題への直接支援(地域課題解決)
課題に直接アプローチするコンサルティングです。具体的なテーマに対して調査、構想策定や事務局としての取り回しを行い、課題解決を推進するため、地方創生コンサルティングの中でも、最もイメージしやすい支援かと思います。
②自治体と連携した民間企業支援(地域イノベーション支援)
地方自治体と協働で創業支援や中小企業における新規事業育成支援、人材育成支援を行うコンサルティングです。コンサルティングファームの本業ともいえる民間企業支援を通じて、地域経済の活性化に貢献します。
③DX推進支援(自治体デジタル化支援)
ITに強みを持つコンサルティングファームが請け負う支援です。スマートシティといった先進的なテーマから、DX化による業務改善といったテーマまで、多様なテーマにおいてシステム構想策定から構築までを請け負います。民間企業と手を組んでサービス提供をするケースもあります。
以上三つのテーマの事例について、次章以降でご紹介します。
①個別課題への直接支援(地域課題解決)
地方が抱える課題に対するコンサルティングには、多様なテーマが存在します。ここでは、イメージが湧きやすい事例として、日本総研とNTTデータ経営研究所、ドリームインキュベータの取り組みを紹介していきます。
◆日本総合研究所×宮城県:「公用車運用の業務改革(BPR)支援」
日本総合研究所は、宮城県庁における公用車運用の非効率を解消するため、業務プロセス改革(BPR:Business Process Reengineering)を実施しました。
宮城県では「公用車の適正台数」「管理方法の効率化」について、課題意識を持っていました。例えば、自課が保有する公用車を利用するルールでありながら、空きがない場合は他課の公用車を借りなければならず、運用が煩雑となっていました。また、使用状況の管理を紙で行っていたことから、集計・分析に大きな負荷がかかっていました。
そこで同社は、BPRのフレームワークに基づき、「課題抽出」「解決策の提示」「改善効果シミュレーション」を実施しました。具体的には、車両の保有形態や稼働状況などの可視化を行い、車両保有台数の適正化、軽自動車・ハイブリッド車への移行やリース導入の検討、管理システムの電子化といった改善策を提示しています。
さらに、効果シミュレーションでは、予約・管理業務の負担が約82%削減できる見込みが示されました。費用は一部増加すると試算しているものの、今後ますます人手不足が予測される官公庁において人的リソース削減によるメリットは大きいとしています。
(出典:日本総研)
◆NTTデータ経営研究所×京都市:タクシー駐停車マナー改善に向けた共同実証
NTTデータ経営研究所は、京都市と協働で、京都市の四条通沿道のタクシーの駐停車マナー向上を目的とした実証実験を行いました。
繁華街の四条通では、駐停車禁止エリア横断歩道や交差点付近での客待ちなど、一部のタクシーによる道路交通法の違反行為が多く、バス発着の妨害や渋滞の発生といった問題が発生していました。
上記の問題解決へ向けて、人間心理の特徴を利用した施策を実施しています。その方法は「ナッジ」と呼ばれる、行動科学の知見を利用して人々のより良い行動を後押しする手法です。
プレスリリースによると、この実証により下記の成果を挙げたことを発表しました。
- 交差点付近での違法な「客待ち停車」の削減
ナッジの知見を活用した看板(下記画像詳細)を交差点に設置。その結果、看板設置前に比べ、設置後では、一日あたりの違法停車時間の合計が約9割減少。 - タクシー乗り場における本来の規定台数を超過した車両の削減
同じく看板を四条通沿道タクシー乗り場2箇所に設置。その結果規定台数を超過して停車する台数が一日当たり西行で約7割、東行で約3割減少。

◆ドリームインキュベータ×豊田市:ソーシャルインパクトボンドを活用した新たな介護予防事業の開始
ドリームインキュベータ(DI)は、愛知県豊田市と協力・連携し、ソーシャルインパクトボンドを活用した新たな介護予防事業を開始しました。
ソーシャルインパクトボンド(SIB)とは、民間団体が投資家から調達した資金をもとに公共サービスを提供し、その成果に応じて政府や自治体から報酬が支払われ、投資収益に反映される事業を指します。社会課題を解決する新たな官民連携の手法として注目されています。
2020年、愛知県豊田市とDIは、SIBの活用に向けた調査・研究に関する覚書を締結。医療・健康分野等においてSIB活用の検討を進めてきました。本事業は、SIB事業の第一弾として、豊田市内の高齢者が将来的に要介護状態に陥るリスクを減らすことを目的に、介護予防を推進するもの。
DIがとりまとめを行い、DIの100%子会社「Next Riseソーシャルインパクト推進機構」が、運営と推進を行っています。
同プロジェクトでは、多くの事業者が参画し多彩なプログラムが用意されています。例えば、ドローン教室やフラダンスを取り入れたトレーニング、共食サービスなどといったプログラムです。このような介護予防を促す取り組みを通して、増え続ける介護費の削減も期待できるほか、地元事業者の活性化、事業者同士の連携による共創なども生まれているそうです。

②自治体と連携した民間企業支援(地域イノベーション支援)
次に、官民連携型のイノベーション支援の事例として、PwCコンサルティングの取り組みを紹介します。
◆PwCコンサルティング×愛媛県:「CONNECT えひめ」による企業DX・イノベーション支援
PwCコンサルティングは、愛媛県が実施する「CONNECTえひめ」において、同社の経営支援ノウハウや、DXやSXなどの新たな社会課題に関する知見を提供するとともに、地域企業に対して生成AIの導入・活用支援を行いました。
「CONNECTえひめ」は、愛媛県が地域の金融機関・商工団体・コンサルティングファームと連携して、ポストコロナにおける地域企業の経営力強化を支援する事業で、2022年から実施されています。
その中で、PwCは地域金融機関と連携した地域企業支援を行うほか、金融機関などへ支援ノウハウの移転を進めています。また、2024年度は、地域企業の重要課題である人手不足への打ち手として、生成AI活用の道筋を示す支援を提供しました。
具体的には、次の4つのステップで実証を行いました。
- インプットセッション
支援企業の社員に向けてセミナーを行い、生成AIに関する理解を促進 - 実証方針の検討
生成AIを取り入れた業務フローを検討 - 生成AI活用の実証
実証とフィードバックを繰り返し、支援先企業の習熟度に応じたサポートを実施 - 実行計画案の策定
生成AIの本格導入に向けたアクションプランをまとめ、支援先企業にどのような経営力強化をもたらすかの仮説を提示
その結果、支援企業において半数以上が生成AIを導入するに至ったとしています。
(出典:PwC)
③DX推進支援(自治体デジタル化支援)
最後はDXコンサルティング事例です。KPMG、デロイトトーマツコンサルティング、アビームコンサルティングのプロジェクトを紹介します。
◆KPMGコンサルティング×宇都宮市:AIを活用した政策シミュレーション支援
KPMGコンサルティングは、宇都宮市および日立システムズと共同で、政策シミュレーションの高度化を目的とした研究プロジェクトを実施しました。本取り組みは、自治体が抱える将来課題に対して、AI技術を用いて政策の効果を可視化し、科学的根拠に基づく意思決定を支援するものです。
宇都宮市では、将来の人口動態や社会構造の変化に対応するため、政策の方向性を定量的に把握する必要がありました。KPMGは、市が持つ指標データをAIで分析し、2050年における宇都宮市の将来像を7種類のシナリオで可視化しました。特に、住民の健康、交通、まちづくりなどに関連する政策における複数の指標について、「どの要素が結果に影響するか」を因果関係としてモデル化しています。
具体的な取り組みとしては、行政職員とのワークショップを通じ、指標間の因果関係を定義した「因果連関モデル」を作成。その後、AIを活用し約2万通りのシミュレーションを行った結果、7種類のシナリオと4回のターニングポイント、重視すべき指標を導き出しました。
これにより市は、2050年時点で指標の状況が最も改善するシナリオを選択。ターニングポイントを迎えるまでにどのような政策を重視すべきかを把握することができました。
本研究は、自治体DXの中でも特に「データに基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making)」を強化する取り組みとして位置付けられています。デジタル技術と行政知を結びつけ、政策形成プロセスの高度化を図る事例として注目されています。
(参照:KPMGコンサルティング)
(出典:日立システムズ)
◆デロイトトーマツコンサルティング:スマートシティ構想立案からAI開発・実装までの支援サービス
デロイトトーマツコンサルティング(DTC)は、2021年、AIを利活用したサービスによる社会課題解決に取り組む株式会社エクサウィザーズとスマートシティ分野における実証プロジェクトで協業し、地方自治体や関連企業への支援サービスの提供を開始することを発表しました。
エクサウィザーズ社はこれまで、神奈川県「神奈川 ME-BYOリビングラボ」における介護関連データを対象とした「要介護度予測AI」開発事業の採択、浜松市や宮崎市などでの実証事業など、地方自治体へのさまざまなAI導入のプロジェクトを実施してきました。
DTCは、スマートシティの実現に挑戦する企業・地方公共団体・関係府省に対する支援を数多く行ってきました。スマートシティに関する取り組みでは、モビリティ・環境・エネルギー・経済・行政・教育・生活・ヘルスケア・安全・安心など、幅広い領域の知見が求められ、スマートシティの推進にあたっては、ヒト・モノ・カネをふくめた全体構想をすることが必要です。DTCは、そのための方法論を体系化し、方法論に基づく戦略・構想策定ならびに実証の支援を提供しています。
2社のリリースによると、今後DTCが有する方法論と、エクサウィザーズ社の有する高度なAI技術を組み合わせ、スマートシティの取り組みに関わる地方自治体や関連企業への支援をすることで、人々の生活の質の向上、豊かな暮らしができる仕組みづくり、社会課題解決のさらなる推進を図る、とのことです。
(参照:デロイト トーマツ グループ、エクサウィザーズ)
◆アビームコンサルティング×山梨県:「校務DX(教職員主体の働き方改革)支援」
アビームコンサルティングは、山梨県教育委員会と連携して、教職員が主体となって働き方改革を実現する「校務DX」を支援しました。
山梨県では、従来よりICT環境整備を推進してきましたが、教職員が主体となりICT活用を日常化するまでには至っていませんでした。教職員からは「多岐に渡る校務を担いつつ、校務DXまで手が回らない」「ICTに不慣れで、紙中心の業務からの変更に不安を感じる」などの声も寄せられており、教職員の意欲を引き出す伴走型の支援が求められていました。
アビームは、4つのモデル校(高校・特別支援学校)を選定し、課題抽出→要因分析→解決策検討というプロセスを、教職員自身が主体となるかたちで伴走支援しました。また、研修・ワークショップを通じてICTツール(Microsoft 365等)活用のナレッジ共有・ハンズオン形式でローコード/ノーコードアプリの開発も実施しました。
その結果、モデル校において教職員がICT活用の重要性を自ら実感し、スキル向上が促されました。また、これらの成果をまとめた事例集・研修資料を作成し、県内全域への横展開と普及を促進しました。
本事例は、自治体(教育委員会)が持つ校務業務という個別テーマに対して、デジタル化と人材育成を組み合わせて改革を実現した「自治体におけるDX推進コンサルティング」の好例です。
(出典:アビームコンサルティング)
地方自治体へのコンサルティングの狙いは?
ここまで様々な地方自治体に対するコンサルティングサービスをご紹介しました。
では、これらのサービスを実施する目的はどこにあるのでしょうか?
一般論として地方の企業を顧客とするよりも、都心の大企業を顧客とする方が案件金額は大きくなる傾向にあります。つまり、収益面からはコンサルティングファームにとって魅力的ではない地方自治体へサービス展開しているのですが、話題性や宣伝効果を狙っている、と筆者は推測しています。
明確に収益外の意図が謳われている事例は少ないですが、先進企業との提携による実績積み上げを狙っていると思われる点や話題性がある取り組みが多いことからも収益外の意図を窺うことが出来ます。
「こういった先進的な取り組みをしています」というアピールは案件獲得以外にも、例えば人材獲得にも有効です。新卒入社の社員を募集する際のアピール点として利用したりすることが想定されます。
以上、コンサルティングファームの地方自治体へのサービス展開をご紹介しました。
まとめ
各社様々なコンサルティングサービスを、地方向けに提供していることがお分かりいただけたかと思います。
特徴として、明確に収益外の意図が謳われている事例は少なく、収益外の意図(社内育成など)も含めて地方におけるコンサルティングサービスを提供している点があげられます。
「地方創生」などを企図したコンサルティングサービスは話題性も大きく、各社今後とも積極的に取り組んでいくのではないでしょうか。
また地方の自治体のみならず、公共団体や商工会議所など地方の社会課題解決にとりくむ団体としても、自身で保有していないノウハウ(企業成長・多様な企業の取りまとめ、DX構想等)を持つコンサルティングファームと協働で課題解決に向けた取り組みを推進するメリットは大きいと考えます。
少子高齢化や企業の減少など地方に関する課題は、今後より顕在化してくるでしょう。その点で引き続き注目していく必要がある領域だと思います。
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執筆者

- 外資系コンサルティングファームにて戦略、業務、ITプロジェクトと幅広く経験。現在はベンチャー企業のマネージャーをしながらフリーのコンサルタントとしても活動中。
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