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メタバース活用が進む医療業界の取り組みとは|注目される6つの事例を紹介
着々と広がるメタバース活用。ヘルスケア領域の事例をもとに今後を予測
ブームは去ったかに見える「メタバース」。ガートナーの「インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」でも、過度な期待のピーク期が過ぎ幻滅期に入ったと伝えています。しかし、総務省は日本のメタバース市場は2022年度の1,825億円(見込)から2026年度には1兆42億円まで拡大すると予測しており、徐々に社会実装は進んでいます。本記事では、特に期待が高まるメタバースと医療の関わり、そして日本のヘルスケア領域でどのようにメタバースが活用されているのかの事例を整理し、今後を予測しました。
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【2023年09月更新】
目次
そもそもメタバースと医療業界の関わりは?
メタバースとは、リアルの世界とは異なる、コンピューター上に構築された仮想的な空間を指す言葉です。「超越」を意味する”メタ”と「世界」を意味する”ユニバース”が組み合わされた造語となっています。
ユーザーが「アバター」を使って、好みのアイテムを着用するゲームをイメージしてください。ゲーム内で自由に空間内を散策したり、他のユーザーとコミュニケーションをとって楽しむことができる、メタバースはそのようなイメージです。
医療業界では近年、5Gを活用した遠隔での治療など、デジタルを活用した医療行為や医療環境の改善などに取り組んできました。そこにメタバースという「仮想的な空間」が登場した事で、デジタル化の延長として「仮想空間」を生かした新たな取り組みが進んできています。
メタバースによって今後医療はどのように変化しうるのか?
メタバースによって、医療はどのように変化するのでしょうか?次章で現在日本で実際に活用されている具体的な事例を挙げますが、その前にいくつかの方向性を予測してみたいと思います。
1.遠隔医療の進化
まず、今までは遠くて通えなかったクリニックに気軽に通院できるようになると予測できます。医者に相談する、ということへのハードルが下がっていくのではないのでしょうか。
また、アバターを介した双方向のコミュニケーションにより、実際には会っていなくても現実に会っているかのような医療体験が可能となります。その結果として、世界最先端の医療へのアクセスがより容易になったり、居住地域にない医療を受けることができる、といったことがより容易になる可能性が挙げられます。
2.医療サービスの深化
対面で、病院でのみ提供できた医療サービスが、仮想空間においても提供できるようになります。その結果、動けない入院患者が家族と容易にコミュニケーションを取れたり、事前に仮想空間で入院体験ができるといったことが可能になると予測できます。病院は今までにないサービスを提供可能となるわけです。
その結果として、病院はリアルだけではなくオンライン領域におけるサービスの質も向上させなければ患者に来てもらえなくなるようになるかもしれません。リアルとデジタル両面でのサービスの深化が医療業界で求められることになるのではないでしょうか。
3.遠隔教育の加速
新型コロナの影響で、大学の授業が一部リモート化されましたが、メタバース上(仮想空間)での授業だけではなく、将来的には、実技まで完了することが可能になると予測できます。
そうなると、オンラインでも質の高い授業が提供され、最先端の知識と技術を遠隔で身に着け、医者になることができるようになるかもしれません。
病院と同様に大学もリアルとデジタル両面での学習機会の提供が今後の運営におけるキーポイントになっていくことも予測できます。
4.メタバース×AIによるサービスの飛躍的向上
上記予測と同時に、AIによるメタバース活用の加速が考えられます。多くのデータを処理する必要のあるメタバースと親和性の高いAI技術を掛け合わせることで、メタバースの開発や提供できるサービスが飛躍的に向上することも期待できます。
これらの予測の根拠として、現在日本で実際に活用されているメタバースの事例を6つご紹介します。
国内医療業界のメタバース活用事例
現状の医療におけるメタバース活用事例としては大きく分けて二種あります。それぞれの事例をご紹介していきます。
1.病院でサービスを提供せず、メタバース上でサービスを提供する
2.病院で提供するサービスについてメタバース上で教育提供や情報共有を行う
1.メタバース上でサービスを提供する
■順天堂大学:メタバース上での「バーチャルホスピタル」構築
2022年4月、順天堂大学と日本IBMは、「メディカル・メタバース共同研究講座」を設置し、産学連携の取り組みを開始しました。この取り組みでメタバース技術の活用による、時間と距離を超えた新たな医療サービスの研究・開発を進めるとのことです。
順天堂大学のプレスリリースによると、具体的な取り組み内容は以下の通りです。
- 短期実施テーマとして、メタバース空間で順天堂医院を模した「順天堂バーチャルホスピタル」の構築や、患者さんや家族が来院前にバーチャルで病院を体験できる環境を検討していきます。また、ユーザーはアバターとしてバーチャルホスピタルを訪問し、医療従事者や患者さん、家族などと交流できることを目指します。
- また、外出が困難な入院患者さんが病院の外の仮想空間で家族や友人と交流できる「コミュニティ広場」を構想しています。他にも、バーチャルホスピタルにて、説明が複雑になりがちな治療を疑似体験することによって、治療に対する患者さんの理解を深めたり、不安や心配を軽減できるかの検証を予定しています。
- 中長期実施テーマとして、メタバース空間での活動を通じて、メンタルヘルス等の疾患の改善が図れるのかを学術的に検証する計画です。
出所)順天堂大学プレスリリース
仮想空間上に病院を構築し、アバターを通じてコミュニケーションをとれるようにすることで、メタバースを使った医療サービスの構築、臨床現場における有効性の検証に取り組み、患者やその家族へのよりよい医療の提供へつなげることを目指すとしています。
さらに、予約/問診/支払いといった業務もメタバース上で実行できるようにし、種々の業務負担の軽減も図りたい考えも併せて示しています。
[追記:2022年11月に「順天堂バーチャルホスピタル」をWebブラウザ上に公開。2022年から2024年の約3年を投じて徐々にアップデートされていく想定だといいます。]
■comatsuna:メタバース上で相談を受けるヘルスケアサービスの実施
順天堂大学の事例はあくまで研究開発でしたが、こちらはサービスとして既に提供が開始されている事例です。
株式会社comatsunaは、2022年3月、メタバースを利用した医師による、お悩み相談、自助グループ、座談会等を開催するサービス「メタバースクリニック」を開始したことを発表しました。
メタバースクリニックとは、メタバース上に匿名のアバターとして参加し、専門の医療者からアドバイスを受けられるサービスです。診断や診察といった「医療」行為はできないものの、身体や病気に関する疑問や悩みに対して、医師や看護師・薬剤師・PT(理学療法士)・OT(作業療法士)など、さまざまな専門家から回答を得ることができます。また、本サービスを通じて自助グループや座談会等のイベントの開催も可能です。
comatsunaの代表取締役の吉岡氏は現役の精神科医でもあります。診療行為だけでは捕えきれない課題に対して、医師ならではの発想でメタバースの利点を生かすサービスを提供しています。
出所)comatsunaプレスリリース
■美容皮膚科さくらクリニック:メタバース上でダイエット相談会の実施
3つ目の事例は、病人向けではない医療サービスにおいて、メタバースが活用されている事例です。美容皮膚科さくらクリニックは、2022年8月に医療痩身サービス「MEDICAL BODY MAKING」をスタートしました。その中で、ダイエット相談をメタバースで行うサービス※を提供しています。
※メタバース上では相談のみを受付、実際の医療行為は病院で提供される。
メタバース上での相談会のため全国各地から参加があったようですが、その効果について美容皮膚科サクラクリニックは、プレスリリースでこう説明します。
『参加された方からは、「メタバース上だったから、メイクや着替えもせずに気軽に入室できた。」「近くに医療痩身をやっているクリニックがないため、新鮮な気持ちで相談できた」などのお声をいただきました。来場者様同士の交流も見受けられ、「悩んでいるのは自分だけではなかった」といった安堵のお声や、「自分より危機感を持った方と話したことで、ダイエットのモチベーションが上がった」というお声もいただきました。』
出所)美容皮膚科サクラクリニックプレスリリース
今後もメタバースを用いたダイエットに関する相談会を実施予定とのことで、ダイエットに関する正しい知識の啓蒙や、医療機関での痩身プログラムはどのようなものなのかの紹介、同じ悩みを持つ方同士の交流会など、さまざまなイベントの実施を計画しているとのことです。
2.メタバース上で教育提供や情報共有を行う
■楽天モバイル:歯科医療教育にメタバースを活用
2022年5月31日、楽天モバイルは株式会社Dental Predictionと共同で、歯科衛生士の歯科知識・技術の共有・習得を目的とした、メタバースに関する実証実験を行いました。
この実証実験は、楽天モバイルの5Gネットワークとメタバースを活用し、国内3都市・4拠点から、歯科医師、歯科衛生士がVRゴーグルを着用して遠隔参加。Dental Prediction所属の歯科医師が講義を行うというものです。
具体的には、患者の口腔内をスキャンして作成された歯列や歯根の3Dモデルデータをメタバース上で操作し、講師が最先端の治療法や希少症例の解説・VRを活用したトレーニングなどを説明したほか、質疑応答やインタラクティブなディスカッションがすべてメタバース上で行われました。
出所)楽天モバイルプレスリリース
楽天モバイルによると、受講者から「医師や患者さんが今後体験するであろう新しい未来が見えた」や「メタバース上、複数人で同時に同一の3Dモデルを確認できることの有効性が確認できた」、「VRをはじめて体験したが、3Dモデルを確認する角度の変更や縮小、拡大が自由で実用性が高いと感じた」などの声が上がったとのことです。また、講師からは、「実際の患者さんのデータを3D化したデジタルツインで治療のシミュレーションを何度も事前に行うことで、実際の手技の精度を向上させることもできるようになる」とのコメントもあがっています。
■アステラス製薬:仮想空間での医療従事者への講演会
続いての事例は、実際に実施されているメタバース活用事例です。
アステラス製薬は2022年8月から、仮想空間で医師向けのWebシンポジウムを開催しています。
Webシンポジウムは、同社つくば研究センター内のホールを模したメタバース空間「アステラスデジタルホール」で開催され、医師は自分の分身となるアバターを操作しながら参加します。
同じくアバターを操作する他の医師とともに講演会を聞いたり、拍手など簡単なリアクションを示したりすることも可能です。そのため、オンライン講演会よりも臨場感があり、偶発的なコミュニケーションを作り出せるといいます。
同プロジェクトは2020年頃から開始されており、21年にはテスト講演会を実施。医師の満足度は高く、9割がリピートの意向を示したと伝えています。通信環境や対応ブラウザなどには課題が残るものの、将来的にはリアルとオンラインのハイブリッドなコミュニケーションも視野に、さまざまな講演会をメタバース上で実施していくそうです。
■イマクリエイト:医療従事者向けのVR注射シミュレーターの開発
最後は、ワクチン接種という医療行為の研修を早期に効果的に完了する、という目的の元提供されているサービスです。2021年4月、イマクリエイト株式会社は、新型コロナワクチンの接種推進を企図しVR注射シミュレーターを開発しました。
同社のプレスリリースによると、シミュレーターでは、新型コロナワクチンに代表される筋肉注射の手順を、VR内に表示されるお手本に沿って行うだけで感覚的に覚え、身に着けることができるため、座学や資料を用いて行う学習よりも、手順の間違いや漏れを防止できる等、より高い学習効果が期待される、とのことです。
また、同シミュレーターは注射に慣れていない医療関係者でも筋肉注射の研修を効率的に行う為のVRコンテンツであり、教育の為の人材を派遣することが難しい僻地やコロナ禍において多人数の集まることができない状況においても、効率的にワクチン接種のトレーニングを行えるのが特徴だとしています。
なお、2021年8月には高知県室戸市において実際にVRを活用したワクチン接種研修を実施しています。
出所)イマクリエイトプレスリリース
[追記:イマクリエイトは、2023年8月、富士フイルムシステムサービスと共同で仮想空間×AIの研究を開始。仮想空間とChatGPTを組み合わせ、様々な相手とのコミュニケーションを実践形式で学習できるコンテンツの研究・開発に取り組むと伝えています。]
まとめ 今後の展望と課題点
今回事例で見たように、医療業界においては大きく分けて「仮想病院構築」と「教育・研修」の二種類の方向性でメタバース活用が進められており、メタバースと医療分野の親和性は高いものとなっています。
日本における高齢者のITリテラシーなどを考慮すると、ユーザーへのサービス提供の観点ではあくまで限定的な役割になると思いますが、今後の取り組みはさらに加速していくことが予測できます。将来的にはワクチンの研修のように、様々なシーンで活用される時代が到来するかもしれません。
医療分野に限らず、公共性の高い領域(教育、防災、自殺防止、、、)は今後需要がさらに大きくなっていくでしょう。また、国内でメタバースが”バズワード化”した要因でもあるゲーム分野やエンタメ分野も親和性が高く、活用が進んでいます。ゲームやエンタメにおいては、仮想空間の制作以上に日本が強いコンテンツ(漫画やアニメ)でいかにマーケットを押さえていくかが重要でしょう。
他の業界においても、ビジネスにメタバースの活用が進んでいくものと考えられますが、メタバースがNFTや仮想通貨によって実現される独立した1つの仮想経済圏であることを考えると、メタバース上で展開するビジネスをいかに最適なものとするか、全く新しいサービスを如何に創出するかがカギになってくるのではないでしょうか。つまりメタバースを活用した事業を如何に収益化するのかに尽きます。メタバースにおける直近の課題感は、費用対効果が見合わない若しくは売上の予測が立てにくいため、企業にとってはギャンブル的要素があり投資しづらいということでしょう。
また、明示的な法律やルールが定められていないため、事業者・ユーザー共に予期しない/意図しないトラブルも懸念されます。個人や資産の情報の保護、コンテンツの保護などの体制や制度を構築していくことも必要になります。
つまり、個別最適化されたメタバース展開ではなく、構想策定から一気通貫でのメタバース検討が重要になってくるのではないでしょうか。こういった観点でのコンサルティングサービスが増加することも予想されます。
今後の実証実験やサービスの発表でまた一段とメタバース活用が加速していく可能性があるため、引き続きその動向を注視したいと思います。
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執筆者
- 外資系コンサルティングファームにて戦略、業務、ITプロジェクトと幅広く経験。現在はベンチャー企業のマネージャーをしながらフリーのコンサルタントとしても活動中。
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