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大量解雇の波は日本のコンサル業界にも及ぶのか? ~前編~ | 米巨大テック企業大量解雇の波
米IT企業で吹き荒れるリストラの嵐。日本のコンサル採用市場への影響を考察。
米国の巨大テック企業で大量解雇の波が起こっています。日本のコンサル業界も、米巨大テック企業を膨張させてきた、非接触・リモート・IT化・自動化・AIなどのテクノロジーとは切っても切り離せない状況にあり、何かしら影響があると考えられます。当記事では、米巨大テック企業で起こった大量解雇のメカニズムや、日本のコンサル業界に与える影響を考察し、実際の現場で聞かれている声の紹介も交えながら、旗色が悪くなるかもしれないコンサルタントたちの行方を占います。
(2023.03追記)
先日発表された米アクセンチュア1.9万人人員削減の報を受け、~後編~として記事を寄稿しました。日本のコンサルタントに人員削減の波は及ぶのでしょうか?考察しました。
目次
そもそも「大量解雇」が起こったメカニズムとは?
GAFA(グーグル、アップル、メタ(フェイスブック)、アマゾン)と呼ばれる米国の巨大テック企業を筆頭に、2022年秋ごろから大規模な人員削減の発表が続いています。
今般の「大量解雇」についての解説記事は枚挙にいとまがないくらいありますので、本記事では、そもそも「大量解雇」が起こったメカニズムとは何であるかを紐解きます。
解雇しなくてはいけない人数※1=【A】÷【B】
【A】人を切ることで確保しなければならないキャッシュフロー※2
【B】切る人たちの平均単価
となります。
※1 今回この人数が普通ではないので「大量」と言われています。
※2 キャッシュフローとは、一定会計期間にどれだけの現金が流入・流出したかという「お金の流れ」を指します。なぜキャッシュフローが重要かというと、会社がいくら売上や利益を追求しても、手元に現金預金が残っていなければ、支払い困難となり事業継続が難しくなるためです。
今回、世間の耳目を集めた、米国のIT大手である、メタ(フェイスブック)・アマゾン・セールスフォース等の場合、そもそもの事業規模が大きいことから、【A】(人を切ることで確保しなければならないキャッシュフロー)も大きいですが、日本の比ではないほど【B】(切る人たちの平均単価)も高くなっています。
両者がバランスしている内は、「事業規模が大きいので【A】も大きいが、イケてる会社なので【B】も大きい」 = 「何人か切れば足りる」という理屈で、「大量解雇」にはならなさそうです。
しかし、【A】が【B】を追い抜いて、バランスが崩れたとしたらどうでしょうか?
実は、これが今回の大量解雇を引き起こしたメカニズムなのです。
コロナ禍の大規模緩和とその巻き戻しによる、米巨大テックの誤算
【A】(人を切ることで確保しなければならないキャッシュフロー)が膨れ上がったストーリーはこうです。
コロナ禍を受けた米巨大テック企業の膨張
- コロナ禍の発生を受け、世界中で大規模な金融緩和を実施
- コロナ禍救済のための多額のマネーが資本市場にも流れ込み、文字通りの「成長株」である米巨大テック企業の株価が大幅に上昇
- これに加え、デジタル化・非接触化・ECといった、米巨大テック企業が得意とする分野も急拡大
- こうした超追い風を背景に、米巨大テック企業の人員・事業共に急激に成長
しかし、(実際におごっていたかは別として)おごれるものは久しからず、です。ご存じの通り、ウクライナ侵攻等を契機としたインフレ、これを抑制するための金融引き締めによるマネーの逆流などが、膨れ上がった巨大テック企業を襲ったのです。
ウクライナ侵攻等を契機としたマネーの逆流
- ロシアのウクライナ侵攻により、石油・ガス・半導体等々がすべて値上がり
- いわゆる「コストプッシュ型インフレ」が発生し、各国でインフレーションが発生
- 米国FRBを代表とする各国中銀が容赦なく利上げしてインフレ抑制※1に奔走
- 今まで米巨大テック企業に流れ込んでいた大量のマネーが逆流
※1 インフレとは、物の価値がどんどん上がっていって、「昨日よりお金の価値が低い今日」が連続していく現象ですが、金利を上げることによって「昨日よりもお金の価値が高い今日」を作ることでこれを相殺ないし正常化する、というのが近代金融論のベースです。
という構図ですね。
もちろん、このとき米巨大テック企業の経営が健常で、「そんなのへのかっぱ」なら問題なかったのですが、無理な膨張で様々な「不健康」を抱えていました。
マネーの逆流を受け止めきれなかった米巨大テックの誤算
- マネーを抜かれると死んでしまいそうになるほどの、不健全な事業拡大
- 人の取り合いの中で大量発生した「働かない高給取り」
- 人の取り合いによる人件費高騰から、収益が悪化
- コロナ禍の正常化により、Face to Faceへの巻き戻しが起こり、非接触・リモートといった「米巨大テック企業のドル箱分野」の勢いが減退
上記1~3で不健康になっていたところに4が来た形ですね。
労働法制の違い~米巨大テックが巨大な理由~
これはもう耳タコだと思うのですが、忘れてはいけないのが「人を切るのは企業の自由」の米国労働法制です。
この法制があるために、GAFAを代表とする米巨大テックは、「景気が悪くなれば人を切ればいいや」という理屈で急拡大できたのです。(逆に、日本の経営が思い切った人的拡大、事業拡大に踏み切れないのは、「一度拡大してしまうと巻き戻しにくい」法制があるせいです。変化の激しい時代にあって、非正規やジョブ主義の流れが日本でも強くなっているのは、当然なのかもしれないですね)。
日本で聞くとショッキングな大量解雇も、米巨大テックの経営者たちや、米国民にとっては割と当たり前のことなのかもしれません。
「米巨大テックの誤算」はコンサル業界にも当てはまるのか?
さて、色々書いてきましたが、ここからが本題です。結論からいうと「日系ファームは影響軽微、外資系ファームの方が影響大きい」だと思います。
コンサルティングファームにも当てはまる「不相応な事業の膨張」
コンサルティングファームというのは、基本的にクライアントからフィーをもらうビジネスですので、「クライアントが元気ならファームも元気」という構造になっています。
昨今の米巨大テック企業を始めとする優良企業へのマネーの流入は、少なからずファームを潤しました。かつ、リモート・非接触・DX・AIといった、いかにもコンサルティングファームに支援を頼みたくなる分野の流行も、ファームを勢いづけた恰好です。
コンサルタントも取り合いになり、コンサルティングファームが提示する年収は、年々高くなってきています。
コンサルティングファームの事業規模を構成する要素は非常にシンプルで、
事業規模=コンサルタント数×単価×マージン
となっていますので、コンサルタントの人数も単価も増加していくにつれて、各社の事業規模及び業界規模はどんどん膨れていきました。
外資系ファームは母国のスタンスが経営に色濃く反映される
外資系大手はこうした追い風を受けて、人員数も単価も増加させ続けていきました。
米国とのパイプが強く、本国でも日本国内でもウハウハだったことに加え、IT系を得意とするためフィットが良かったことも後押しとなりました。また、日本なので限界はありますが、「景気が悪くなったら干したり、給料を下げたりして、人を追い出せばいいや」という文化も一定程度あったと思います。人材の要件を下げてでも積極採用してきたわけです。
外資系ほどオラつけない、堅実な日系勢
日系ファームももちろん、積極採用をしてきましたが、外資系ほどのブランド力もないことから、中途採用候補者の集客に労することもあり、なんとか差別化を模索しながら人材要件を下げずに採用をしてきました。
また、日系ファームには厳しい労働法制が真っ向から適用されます。某新進気鋭の上場ファームなどは、株式市場からも睨まれているので、急拡大する中でも、案件の単価を上げたり分散を測ったり、案件数と人数のバランスを取りながらうまくドライブしているそうです。
さらに、案件においても中長期的な視点でクライアントとの関係性を重視する傾向があります。親会社や関連事業会社のコネクションから生まれる案件があるというのも日系ならではかもしれません。
今後もしかしたら起きるかもしれないこと
外資系ファームの採用に関しては、「外資系コンサル大手の●●社を受けたけど落とされた」「採用を絞っているらしい」や、「●●社を受けたのだけれど、最終選考後オファーレター発行に1ヵ月かかった」「相当慎重スタンスになっているんだろうか」という声が聞こえてくる可能性が出てきました。
今までは年収2割り増しに加え、数百万のサインナップボーナス提示がザラでしたが、今後は経験に応じた適切なオファー条件に落ち着いていくかもしれません。
一方で、日系ファームも状況が変わるかもしれません。採用に力を入れるも比較的慎重だったため、カツカツのリソースで回していますし、ホワイト化が進んで実質的な人員の稼働率も落ちています。
そのため「人がいないから案件が取れない!」と悲鳴を上げていたわけですが、過熱していた採用市場が落ち着くことで、採用が進み、少し悲鳴が収まるのではないでしょうか。
巨大な波が押し寄せた場合、コンサルはどこへ行く?
まだ先のことはわからないですが、長期のアベイラブル※や給料の引き下げなどが始まったら、旗色の悪くなったコンサルタントたちはどこへ行くのでしょうか?考えられる主なキャリアパスを以下に3つご紹介します。
*アベイラブルとは、案件にアサインされないという、いわゆる社内無職状態を意味します。
コンサルタントのネクストキャリア
1.コンサルフィー100%獲得を目指して独立(フリーランス)
アベっている人員が増えている状況で、ファームからすれば外部人材を使うという選択肢がどんどん減っていきますので、フリーランスにとっては厳しい状況になります。
それでも圧倒的なスキルや経験がある、もしくは大手ファームでもそうそういない専門性を有している人材であると自負があれば独立もありです。
独立すれば、現在1/3も回収できていないコンサルティングフィーが全部自分のものになります。クライアントに出している単価表と、自分の手取りを見て、「え、こんなに会社が取ってるの?」と思わなかったコンサルタントはいないのではないでしょうか。当然リスクはありますが、一発やってみたい、という人は少なくないでしょう。
2.給料は下がっても「夢」or「安定」のある事業会社
ストックオプションなどの夢があるベンチャー企業への転職も魅力的です。「仕事が楽しい、寝られる、仲間がいるのが最高の福利厚生」と、ベンチャーに転職した元同僚が言っていました。
また、「JTC*で一休み」もよくある選択肢です。コンサルティングファームである程度の経験を積んだコンサルタントなら、JTCでは無双できるでしょう。
*JTCとは、Japanese Traditional Companyの略で、日本の伝統的企業を指すネットスラングです。
3.日系の他ファームに移籍する
これも結構多いパターンです。特にM-up*なら三顧の礼で迎えられますし、「受けてみるだけならタダ」なので、自分の市場価値を試す意味でも、チャレンジしてみて損はないです。
*M-upとは、マネージャー以上を指すコンサル業界特有の業界用語。
というわけで、いろいろ見てきましたが、本メディアを運営するコダワリ・ビジネス・コンサルティング株式会社は、1~3いずれもご支援できます。今後のキャリアについてお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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執筆者
- 新卒で外資系コンサルティングファームに入社。以来、現在まで一貫してHR領域のコンサルタント、リサーチャーとして活動。2022年に独立。趣味は筋トレとカリンバ。
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